2009/02/07

LOUDNESS 241

<余談>
ケータイ小説も一時のブームが去り、2008年は話題作がなかったそうです。
作品数の激増で読者が分散したため大ヒットが生まれないという見方もあるけれど、やっぱり、ターゲットが飽きやすい読者層なのと、実際問題、それなりに面白い作品が無いということに尽きるんじゃないでしょうか。
「おバカキャラ」の時代が終焉を迎えれば、同時に、内容があまりに浅薄すぎるものは、自然と淘汰されていくことでしょう。ただ一方で、もし、2009年が「お利口キャラ」の時代に急激に移行するとすれば、その反動で、「おバカ」が生き残る可能性はあるでしょう。
「本物志向」を標榜したUWFが大ブレークすれば、その反動で、「邪道」を旗標に掲げたFMWが支持されるようなものですね。片方の体制が増大すれば、それに伴って反体制も根強くなるというものです。

とは言っても、若い人にとって、文章を書く機会っていうのは、大切なことだと思います。たとえどんなに軽薄な内容であっても、文章ってものは、書いてみて初めてわかる難しさがあるものなんで。
ケータイ小説っていうものも、書いてみればわかるけど、それなりに文脈とか考えないと、書けないものです。全部が全部、会話調で書ききってしまったら、意味無いとは思いますが。

ちなみに、「Deep Love アユの物語」(yoshi氏)は結構好きでした。
全く評価されない向きもあるけれど、だったら「蛇にピアス」(金原ひとみ氏)はどうなんだろうっていう気もしたりして。
大昔、「地には平和を」(小松左京氏)が評価されなかったのと、同じ潮流と言ったら、小松氏に失礼でしょうか。

ただ、個人的には、「ケータイ小説」と言っても、最終的には”紙”媒体で読んで欲しいと思います。やっぱり、液晶画面では、いくら文章を読んでも脳が成長しない気がするんです。
全く根拠はないけれど。
前出の「Deep Love アユの物語」も、出版物になってから読んだんで、それなりに良かったけれど、画面で読んだら、途中で放り出していたんじゃないでしょうか?
出版不況は、ますます深刻の度合を深める昨今、”紙”媒体の重要性を脳科学の面から論じて欲しいものです。勝間和代氏も、ネットの情報が全てではないと、多くの著作で訴えてくれていますが、もっともっと、子供に本を読ませる重要性をアピールしてもらいたいものです。
やっぱり、”紙”なんですよ。
脳に直接響くのは、”紙”。
まさに、「紙か髪か」(小松左京氏)

”食育”というものの重要性が説かれて久しいけれど、
次は、”読育”です。
子供に本を読ませなければ、国は滅びます。

話変わって、ケータイ小説で多用される会話調の文章って、どうも重みが無いように思っていたのですが、最近、「雪国」(川端康成氏)を読んでみたら、メッチャ、会話だらけだったんですね。「へ~。そうなのか~。」と思い直したしだいです。
もちろん、ケータイ小説みたいに、会話のみで成り立つ小説なんて、ノーマル小説ではありえないけど。

しかし、ここのところ読んでないです。小説。
最近、三島由紀夫氏の大昔の作品を引っ張り出して、少し読んでますが、新刊本って、全然読んでないっす。せめて、村上春樹氏くらいは、読んどかんといかんのではないかと思う今日この頃です。

最近の、と言えば、川上未映子氏の新作が、間もなく...あるいは、近いうち...それとも、ちょっと先...はたまた、かなり先...には出版されるみたいですが、結構、期待してたりします。「乳と卵」は、数少ない、最近読んだ、”最近の本”なので。

でも、基本的に好きな作家と言えば、三島由紀夫氏か、小松左京氏なんですね。
音楽でも、今だに、大昔のThin Lizzyや、KISSが好きだったりするるわけだから、同じです。若い頃に出会ったものってのは、何歳になっても引きずるものです。

音楽で、「最近」といえば、唯一、ARCH ENEMYでしょうか。
聴いてしまえば、結構、気にいるバンドもあるんでしょうけどね。
要は、新規開拓する気持ちが萎えるってことでしょうね。
歳とると。


<余談 その2>
というわけで、書いてます。ケータイ小説。
ケータイ小説が、中・高生の遊びというのは今や昔。
これからのケータイ小説は、熟年層の趣味なのです。

[海の男 ~夢の未来図~]
仕事に馴染めず南の島に逃げ出した若者が、幾多の挫折の末に成長していくという、ありふれた内容ですが、唯一、コバルトブルーの海が救いです。ちょこっと「潮騒」(三島由紀夫氏)を意識しているかというと、そんなことはまったくありません。

[デブも痩せれば並一丁]
軽い気持ちで書いた、かる~い内容の小説です。ただ、主人公の女の子はとっても重たいです。最後は、69.9Kgまで、ダイエットしますが。本当は、53Kgくらいまで落とす予定でしたが、月1Kgづつ落としていったら、最終回でも、まだ69.9Kgになっちゃいましたとさ。最初の設定を90Kgにしたのがミスでした。

[赤羽のアリス]
赤羽駅から不思議の国に転落したアリス。その後、ホームレスとして生活するという、社会派ファンタジー。「エスパイ」(小松左京氏)の影響を受けた部分もあったりするのでした。


<本題>
さあ、ケータイ捨てて、
  本屋へ行こう!!


<きょうのBGM>
「宇宙船地球号」 LAZY
聴けば聴くほど、よいアルバムです。「DREAMER」~「DREAMY EXPRESS TRIP」のカッコよさったら、まさに、N.W.O.B.H.M.と対等に渡り合えるものだと再認識させられました。
「PYROMANIA」(DEF LEPPARD)にだって、負けちゃいない。
と、思ったりもするのですが。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/03/08

LOUDNESS 181

「乳と卵」読み終わってんけど、緑子の気持ち、ようけわかるような気いするのんな、川上未映子はん、えらいべっぴんさんや思うたわ、ブログ左上に載っかっとる、歌うとおたる写真やけどな、「乳と卵」の帯の写真も、もっとかわいく撮ってやらな、あかんなあ、まあ、あれはあれで、美しかもんやけど、えろー、地味やもんさかい、ブログ左上の写真みたいなん使こーたら、本の売上、5倍アップ間違いないやのんけど、「乳と卵」読んだら、もろ影響受けて、俄か大阪弁になってもうて、どないしてくれんねんて、もちろん、偽・大阪弁なんやけどな、大阪弁て、えろうおもろいやんなあ、2007年に「ルー語変換」流行ったように、2008年は、大阪弁を流行らしたら、よろしおますやろな、「大阪弁変換機能」は、すでに開発されてるさかい、それに、流行るような商品名付けてあげたらええねんけどな、もちろん、大阪弁言うたら、川上未映子さんやさかい、「未映語ー」いう商品名にしたらええのんちゃうか、単に「未映語」にしたら、「ルー語」のパクリ、言われるやろうから、「未映語ー」って、語尾を伸ばすんよ、まあ、「ストレッチプラム」と「冬木スペシャル」みたいなもんで、指の角度が微妙にちゃうし、携帯に標準装備したら、中高生にえらい流行るんちゃうか、最近の中高生いうたら、なんや携帯小説やらに夢中みたいやから、「未映語ー」商品化したら、みんな、こぞって大阪弁小説書くやろなあ、もちろん、内容は改行ばっかやろうけどな、あれ読んどると、なんや、時間軸を改行で表現したケッタイなモンや思うやん、せやから、ケッタイ小説言うんかのう、「乳と卵」読んどると、改行の少なさに驚かされるんやけど、あれ、携帯で読んだら、画面が全部、文字で埋め尽くされるんやろなあ、そんなん、見てみたいもんやわなあ、これこそ、本来の小説のあるべき姿や、思うねんけどな、特に、句点の少なさたるや、新時代の到来を予感させるわな、携帯小説が、文をこま切れにして、句読点と改行だらけにしとるのに対抗しとるみたいやのん、まあ、そげん難しかことは抜きにしても、「乳と卵」は、ほんま、おもろい小説やし、橋本徹府知事も誕生したことやし、世間の耳目が大阪向いとることやし、今年は大阪の年になるやろし、阪神ターガースもえろう久しぶりに優勝するやろし(ホンマかいな)、ガンバ大阪もようやっと優勝するやろし(なんでやねん)、スペル・デルフィン社長も優勝するやろし(何にやねん)、JAPAN HEAVY METAL FANTASYも[GRAND METAL 2008]を大阪城野外音楽堂でやるやろし(大嘘やで)、とにかく、「乳と卵」はもっともっと売れなあかんねんさかい、男も女も、「乳と卵」読みなはれ、老いも若きも、「乳と卵」読みなはれ、翻訳して海外でも、「乳と卵」読みなはれ、あー、疲れたわ。


<おまけ>
携帯小説[デブも痩せれば並一丁]
誰も読みにこない携帯小説、[デブ並]。ケッタイに公開中


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2008/02/23

LOUDNESS 178

「夕暮れの街で」  <下>

このスーパーに入っている本屋は、いつも空いている。
落ち着いて本を探せる素敵なお店だ。
でも、こんなに空いていたら、いつ撤退してしまうか心配だ。

店に入ると目当ての棚に直行。
もう、何度も来ているので、場所もわかっている。

「夜明けの街で」

東野圭吾氏の本を手にとる。
さすがに、立ち読みで一冊まるまる読んだことは、今まで一度もない。

しかし、この本。
いよいよクライマックスにさしかかっている。
すでに発売から半年余り経過して、ようやく読み終わりそうだ。
はやる気持ちを抑えず、一気に、ダダダダダッと読む。
さらに気持ちがはやるものの.....

さすがに10分、立ち読みすると気がひける。

とりあえず、タマネギ買おう。

本屋を出ると、1階の食品売り場へ。
タマネギって、どこにあるんだろう。
このスーパーでは食品売り場の地理に不案内。
店内をぐるりと回って、ようやく野菜売り場を発見。

タマネギは.....
3個入りの袋しかない。
3個は、いらないと思うけど。
いくら見回しても3個入りしかない。
仕方がないので、3個入りの袋を持ってレジに行こうとしたら、反対側にありました。
バラ売りが。

やっとのことで、タマネギ2個、袋にいれて買いました。

本来の目的を果たしたところで、やっぱり気がかり。
結末が.....

そういえば、この近くに、もう1軒、本屋があった。

店内に入るも、滅多に来ない店だから、どこにあるかわからない。
つらつらと探すこと3分。
見覚えのある水色の背表紙発見。
1冊だけありました。

再度、手に取ると、今度こそ一気読み。

読み終わって.....

しばし呆然。

そして.....

あー、満足。
でも、もう少し余韻に浸りたい。

買うつもりはなかったけれど、もう一度、最初の店に戻る。
慣れた場所へ行くと、「夜明けの街で」を手にとり、レジへ。
半年かけて立ち読みした本を、結局、買うことにした。
だって、満足できたから。

スーパーの外に出ると、もう夕暮れ時。
帰ったら、カレーを作るとしよう。
作っておけば、奥様も喜ぶだろう。

やっぱり、夫婦は割れ鍋に閉じ蓋。

家に帰る道すがら。
手提袋の中では、「METAL MAD」と「夜明けの街で」が、タマネギ2個とぶつかり合いながら笑ってる。


   この物語はフィクションです。「METAL MAD」好評発売中。
*-----*-----*-----*-----*-----*----*


<きょうのBGM>
「METAL MAD」 LOUDNESS
鼓動から始まるこのアルバム。LOUDNESSにしては珍しく、名盤を意識したような創りこみが伺える。
前作「Breaking the Taboo」が、やや80年代風味付けでサービスしてくれたけれど、サービス期間は終了したようで、再び、現代LOUDNESS路線です。
それでも、疾走感は全篇にわたって漲っているので、決して飽きないし、聴けば聴くほど味の出るアルバム。
ところどころに、Mr.Jimi Hendrixの影響を感じる。
あるいは、Mr.Uri John Rothか?
とにかく、奥の深いアルバムだけに、何回も聴きこむ必要がありそう。
それでも、全く理解不能という内容ではないし、うまくすれば海外で評価してもらえるかもしれない。
無限の可能性を秘めたアルバムだけに、今後に期待したい。


<いよいよ来週>
JAPAN HEAVY METAL FANTASY
KANSAI NAGURIKOMI GIG 2008
   44MAGNUM
  EARTHSHAKER
    MARINO
2008年3月1日(土) 中野サンプラザ

詳しくは、オフィシャルサイトにて、ご確認下さい。
http://www.j-metal.jp/

<2ヶ月後には>
LOUDNESS LIVESHOCKS 2008
METAL MAD QUATTRO CIRCUIT
2008年4月22日(火) 渋谷 CLUB QUATTRO
2008年4月25日(金) 名古屋 CLUB QUATTRO
2008年4月26日(土) 心斎橋 CLUB QUATTRO

詳しくは、オフィシャルサイトにて、ご確認下さい。


<おまけ>
携帯小説[デブも痩せれば並一丁]
誰も読みにこない携帯小説、[デブ並]。タマネギ買って公開中


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/02/16

LOUDNESS 177

「夕暮れの街で」  <上>


牛乳1本
じゃが芋、豚肉 カレー用
キノコ
納豆
アジの開き
バナナ

妻の書いたメモを見ながら、買い物カゴをぶら下げてスーパーを回っていく。

「男爵イモって、とろけるんじゃなかったかな?」

じゃが芋の袋を手にしながら、考えた。
それとも、とろけるのは、メイクイーンだったか?
どちらにしろ、とろけるじゃが芋では、カレーには向かないだろう。

しかし、思い出せない。
袋には「カレーにどうぞ」と書いてある。
そう書いてあるんだから、いいんだろう。
男爵を買い物カゴに放り込む。

次は豚肉。
何を買ったらいいんだろう。
わからないながらも、適当に、ばら肉を買い物カゴに放り込む。

今日は、妻が大学時代からの友達と、演奏会とやらに出かけている。
帰ってきたらカレーを作るから、材料を用意しておけとのことだったのだ。
そのため、一人で買出しに来ていたのだ。

一通りメモ通り買い物を済ませると、家に帰り、買ってきたものを冷蔵庫に収め始める。

冷蔵庫の野菜室を見ると、じゃが芋が転がっていた。

「なんだ、あるじゃん。」

いやな予感がする。
野菜室を丹念に調べてみる。
人参は3本あった。
しかし。

どうも、玉ねぎが見当たらない。
よくよく探すと、4分の1に切った玉ねぎが1切れ。
どう考えても、カレーには足らないだろう。

顔から血の気が引いていく。
再度、妻のメモを確認する。

やはり、[じゃが芋、豚肉 カレー用]と書いてある。
どこにも、玉ねぎとは書いてない。

一番厄介なパターンだ。
ただ単に、書き間違えたのか、それとも、なにか深いお考えがあってのことなのか。
玉ねぎは、どこか他の場所に、どっさりと保存してあるのかもしれない。

試しに、クローゼットの中を探してみた。
あるわけないだろう。
衣類が臭くなってしまう。
やはり、玉ねぎは無いようだ。

玉ねぎが無かったときと、あるのに買ってきたときの、妻の反応をシュミレーションしてみる。

仕方がない。
玉ねぎだけ、買いに行こう。
玉ねぎ無しのカレーなんて、ありえない。

近所のスーパーは、もう飽きたから、散歩がてら、別のスーパーに行くことにした。

そこは、CDショップもあるし、本屋もある。
ちょうど、都合がよかった。
欲しいCDがあった。
読みたい本もあるんだ。

ぶらぶら歩いて30分。
スーパーに着くと、まずCDショップに寄ってみた。

J-POPの「ラ」行を探す。
あった。
LOUDNESSの「METAL MAD」
早速買うと、次は、本屋に向かった。

   この物語はフィクションです。「METAL MAD」は2月20日発売です。
*-----*-----*-----*-----*-----*-----*

<きょうの「ココだけの話」>
やっぱり酔うと戦闘力もアップするんだろか。
洗濯機を破壊した眞鍋かをりさん。
戦闘力130超!


<あと2週間>
JAPAN HEAVY METAL FANTASY
KANSAI NAGURIKOMI GIG 2008
   44MAGNUM
  EARTHSHAKER
    MARINO
2008年3月1日(土) 中野サンプラザ

詳しくは、オフィシャルサイトにて、ご確認下さい。
http://www.j-metal.jp/


<あと4日>
LOUDNESSニュー・アルバム「METAL MAD」
2008年2月20日リリース


<おまけ>
携帯小説[デブも痩せれば並一丁]
誰も読みにこない携帯小説、[デブ並]。なにがなんでも公開中


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/08/11

LOUDNESS 149

   Alice’s Adventures in Akabane   part.15

パーシーが扉を開けると、一瞬、宇宙空間を思わせる暗がりが広がっていた。
しかし、宇宙空間との違いは、ものすごい爆音が渦巻いているところ。
しばらく呆気にとられていた愛里須は、ようやく、まわりの状況がわかってきた。
ここは、ライブハウスのようだった。
パーシーの奴、赤羽に戻すって言っておいて、違うじゃないか。

「パーシー、ここはどこなの。」

すぐ横に、パーシーの気配を感じ、大声で怒鳴った。
しかし、愛里須の怒鳴り声より、はるかに大きな声で、客席は叫んでいた。

「タカサキー、タカサキー。」

なんで、高崎なんだろう。ここは、赤羽じゃないの?
愛里須は、なにがなんだか、わからなかった。
見ると、ステージの後ろには、日章旗が掛けられている。
その中央には、LOUDNESSと描かれていた。
そして、ヴォーカルが叫ぶ。

「SICK WORLD」

再び、大爆音の演奏が始まった。
あまりにも、すごい爆音に、愛里須は、思わず耳を塞いだ。
すると、パーシーは、愛里須の腕を引っ張り、ステージに向かって突き進んで行った。人ごみを掻き分けて、最前列まで来ると、パーシーは、愛里須の頭をスピーカーの中に押し込んだ。

「パーシー、なにするの。」

鼓膜が破れるのではないかと思った次の瞬間、愛里須の目の前で、世界がグニャリと曲がるような感覚がした。気がつくと、愛里須は、真っ黒な宇宙空間に漂っていた。

Welcome to the sick world

さようなら sick world

宇宙空間を漂いだすと、愛里須は安心して、眠たくなってきた。
ここに来たら、じたばたしても始まらない。
あとは、流れに身を任せるだけだ。
愛里須は、眠気に身を任せると、深い眠りに入っていった。

「大丈夫ですか。」

だれかに肩をゆさぶられている。
パーシーだろうか。
眠りの世界から、徐々に覚醒し始めた。
愛里須は、目を開ける。
その視界の先には、なにやら制服を着た人の姿があった。
愛里須は、ゆっくりと自分の状況がわかり始めた。
どうやら、駅のホームに倒れているようだ。

「よかった、やっと、気がついた。」

駅員さんらしい人が、ホッとした顔をしていた。

「雨の日は、気をつけたほうがいいですよ。滑りやすいところがあるから。」

愛里須は、ようやく記憶が戻り始めた。
赤羽駅で、大雨にあって、ドブネズミを追いかけて.....

いや、単に大雨で濡れたホームで、滑って転び、頭を打ったのだろうか。
とにかく、今まで気絶していたようだ。

状況がわかってくると、急に恥ずかしくなった。

そこへ、ちょうど大宮行きの電車が入線してきた。

「すいません。もう、大丈夫です。ありがとうございました。」

愛里須は、大宮行きの電車に飛び乗った。

夢でも見ていたんだろうか。
でも、随分と、現実味のある夢だった。
愛里須は、ホームと反対側の扉から、外を眺めながら考えていた。

ガセット婆さんのこと、レイグンのこと、麗子のこと、シャルルのこと、そして、パーシーのこと。

その時、発車し始めた電車の窓から、線路の横にある側溝に、灰色の物体が動くにが見えた。
一瞬にして、愛里須は、その物体が何なのか、悟るのだった。

灰色の物体は、その顔を愛里須のほうに向けると、手を振ってきた。
その表情は、「ありがとう。」と語っているように見えた。
愛里須を乗せた電車は、加速するとホームから離れて行った。
すぐに、ドブネズミの姿は見えなくなってしまった。

「さようなら。パーシー。」

愛里須の冒険は、終わった。
                                   <おわり>


<きょうのBGM>
「Breaking the Taboo」 LOUDNESS
LOUDNESS 25周年記念アルバム。
時間をかけて、じっくり創るアルバムもよいけれど、ギリギリのスケジュールで創られたアルバムも、ときとして、好結果を生むという好例。
LOUDNESSに、この路線を継続させるためにも、好セールスを期待したいのだけれど、なかなか世の中上手くいかないものです。
まだ、お買い上げいただいていない方には、ぜひ、お買い求めいただきたい。


<余談>
やっと、終わった。


<余談 その2>
終わったのは、いいけれど、LOUDNESSさん、相変わらず動きなしですか。来週のネタ、ありません。
このまま、シリーズ 第2弾になだれ込むか。

って、ありえません。
もう、小説は疲れた。
と言いつつ、このブログのほかに、携帯小説「デブも痩せれば並一丁」執筆中だったりして。

と、いうわけで、アリスとは、暫しお別れ。
ただ、タイトルだけは、もう出来てます。

第二弾 「赤羽のアリス 逆襲のシャルル」
第三弾 「もっとも赤羽のアリス」
第四弾 「赤羽のアリスと炎のゴブレット」

Tow2号:「いーかげんにしろ。」
Tow1号2号:「どーも、ありがとうございました。」


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/08/04

LOUDNESS 148

   Alice’s Adventures in Akabane   part.14
愛里須の叫びが、すでに暗くなった夜空に吸い込まれていった。
あたりは静かで、なんの変化も見られなかった。

しかし、愛里須には感じられた。
嵐を司る神が、すぐそばに存在していることを。

一陣の風が吹いたかと思うと、暗い夜空が、さらに漆黒の黒で塗りつぶされはじめた。
愛里須の頬に、一粒の水滴が落ちてきた。
それを合図のように、急に強風が吹き始め、同時に大粒の雨が降り始めた。

その頃、水上コテージ建設現場にある愛里須の部屋では、すっかり老け込んでしまった麗子婆さんが、その瞳だけ、怒りで若々しく燃え上がらせると、なんとか慣れない年寄りの身体を動かそうとしていた。
そして、建物から外にでると、大荒れの嵐を見て、さらに怒り狂っていった。
ガセット一族と、レイグンは、大昔からの仇敵だったのだ。
そして、大雨に霞む先に、愛里須の姿を発見すると、レイグンを呼んだであろう愛里須に対して、その怒りの鉾先をむけた。

「貴様、このガセットから何もかも奪いやがって、ただで済むと思うなよ。」

そう叫ぶと、両手を大きく広げ羽ばたいた。
麗子婆さんの姿は、見る見るうちに黒い羽毛で覆われた。
その姿は、1羽のカラスに変身していた。
麗子婆さんカラスは、大きく羽ばたくと、年寄りとは思えない身軽さで、嵐の空に舞い上がっていった。
そして、愛里須目掛けて、一直線に飛んできた。
その嘴で、憎い愛里須の心臓を突き破ろうとすべく、猛烈な勢いだった。

その時、麗子婆さんカラスの横に、別の黒い物体が現れた。
その黒い物体は、なにやら大声で罵っていた。

「どいつもこいつも、アタシを馬鹿にしやがって。ココはアタシの縄張りだよ。勝手に入るヤツは容赦しないよ。」

その黒い物体は、あの負け犬カラス夫人だった。
あの勝ち組カラス夫人を一撃で撃退したときのように、麗子婆さんカラスに攻撃を仕掛けていった。
愛里須に対する怒りで、まわりが見えなくなっていた麗子婆さんカラスは、負け犬カラス夫人の強力な攻撃を受けると、ひとたまりもなく、荒れ狂う川に墜落していった。
川に落ちた麗子婆さんは、再び、人間の姿に戻ると、溺れながら水上コテージの方に流されていった。
そして、水上コテージの柱になんとかしがみつくと、柱を登りだした。
麗子婆さんが、水上コテージに這いあがろうとしたその時。
水上コテージでは、川の水位を測るセンサーが、異常を検知していた。
水位の上昇に伴い、水上コテージ全体を上昇させるシステムが作動した。
水上コテージは、ゆっくりと、その巨大な建造物を上昇させていった。
まさに、麗子自慢の洪水対策が機能したのだった。

しかし、それは柱をよじ登っている麗子婆さんにとって、予定外の動きだった。
その振動で、麗子婆さんは、手を滑らせ、再び、川に落下してしまった。

荒れ狂う川に飲み込まれた麗子婆さんは、なす術もなく、下流に流れていった。

それと同時に、雨はやみ、風もおさまってきた。
あれほど荒れ狂っていた川も、徐々に水位を落とし、穏やかな流れに戻りつつあった。
水上コテージも再び下降し、元の姿へと戻っていった。
川岸の藪が、きれいに洗い流された以外は、何事も無かったかのように平穏さを取り戻しつつあった。
空には、くっきりと満月が輝いている。
その満月をバックに、1匹の生物のようなものが、愛里須の前に降りてきた。
やはり、それはレイグンだった。

「少女よ。再見。ガセット一族、その悪業崇り、ついに滅亡す。しかし、少女よ。汝、自ら災いの種を蒔いた。何時の日か、我、再び出でしときあり。これは、定めなり。我名はレイグン。嵐を司る神なり。」

そして、レイグンは、一条の光となり飛び去って行った。

「アリス。」

飛び去るレイグンを見守る愛里須に、再び大根少年に戻ったパーシーが声をかけてきた。

「あたし、いけないことしたのかしら。レイグンを自由にしてしまったのは、間違いだったのかしら。」

以前は、何も考えたことがなかった。
しかし、レイグンが暴れれば、また洪水の被害が起こるかもしれない。
今の愛里須は、自分のやったことに責任を感じていた。

「なに甘いこと言っているのかしら。あなたは、何も悪いこと、していないわ。悪いのは、あの龍。いつか、あたしが倒すわ。」

「シャルルさん、意識が戻ったのね。」

思わず嬉しくなって声をかけた愛里須は、シャルルの瞳の輝きを見て、ゾッとした。
まるで、麗子の瞳を見ているようだった。

「アリス、約束だ。赤羽に返してあげる。いろいろと、ありがとう。さあ、行こう。」

横からパーシーがそう言うと、愛里須の腕を引っ張って歩き出した。
パーシーは愛里須を連れて下水管の中をぐるぐると歩き回ると、ある扉の前で立ち止まった。

「シャルルの身体には、ガセットの血が流れているんだ。心臓を取り戻しても、こうなることはわかっていた。でも、僕は、あきらめない。ここで、本当のシャルルを取り戻してみせる。あの、やさしい妹のシャルルを。」

パーシーの目に光るものを見た愛里須は、切ない気持ちになったが、自分にはなにもできないこともわかっていた。
あとは、パーシーがなんとかするだろう。

「アリス。本当にありがとう。キミのおかげで、シャルルの心臓を取り戻すことができた。なんとお礼をいっていいか...」

「あたしも、危ない目に遭ったりしたけど、ふつうに生活していたら経験できないことを、いっぱい体験させてもらった。パーシー、これからも頑張ってね。」

もう、愛里須からは、この世界に引きずり込んだパーシーへのわだかまりは消えていた。

「さあ、アリス。赤羽に戻るんだ。」

パーシーは、下水管の扉を開けると、その中に愛里須を押し込んだ。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「LIGHTS OUT」 UFO
とにかくギターの音が美しい。
このアルバムを聴くと、Mr.Michel Schenkerが、後に、多くのギタリストに影響を与えたということが納得できる。
決して、Heavy Metalではないけれど、まさに、これこそハード・ロックだという名盤中の名盤。


<余談>
LOUDNESS オフィシャルHPが、ようやく更新されました。
やっと、ファン・クラブ入会受付が始まるとか。
そろそろ、ライブ・スケジュールとかの発表があってほしい。
我らがラウドネス、活動再開に合わせて、「赤羽のアリス」も、次週、感動のフィナーレを迎えるのでした。


<余談 その2>
来週、8月11日(土)いよいよ、Concerto Moon 目黒鹿鳴館です。
残念ながら、行けません。
Concerto Moon復活の現場を、目撃したかったー。
行ける方は、ぜひ、楽しんできて下さい。
長田昌之さんのパワフル・ドラム。目の当たりにしてきて下さいー。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/28

LOUDNESS 147

   Alice’s Adventures in Akabane   part.13
一気に形勢は逆転した。
血の気のかよいだしたシャルルは、見る見るうちに、人間の姿を取り戻していった。
反対に麗子は、あっという間に、ガセット婆さんの姿に変貌していった。
あのみずみずしかった麗子の身体は、水分を失った年寄りの皮膚になっていた。
年寄りの身体に慣れていない麗子婆さんは、しばらく動くことができなさそうだった。

「今のうちに逃げるのよ。パーシー、この鏡は、あの機械室につながっているんでしょ。案内して。」

愛里須は、このチャンスを利用して、一気に機械室に行くことにした。
ある目論見を持っていたのだ。

「ダメだ。鏡の中の世界をつなぐ動力は、ものすごく電気を消費するんだ。そのため、発電機をまわすんだけれど、15分が限度なんだ。発電機が止まったら、鏡の中から出られなくなる。」

パーシーは、鏡の世界を通って機械室に行くことに反対した。
しかし、発電機は15分もつと言う。
まだ、鏡の中と接続して10分くらいしか経っていないだろう。

「とにかく案内してちょうだい。行くわよ。」

そう怒鳴ると、愛里須は、まだ動けないシャルルを背負って、鏡の中に突入した。
一瞬、自分のまわりの世界が、グニャリと曲がる感覚があり、そして、愛里須は、不思議な部屋の中にいた。
続いて、すぐにパーシーが、鏡の中に入ってきた。
その顔は、明らかに不機嫌だった。
いや、不機嫌というよりは、怯えていたのかもしれない。
もし、発電機が止まってしまったら、もう、鏡の中から出られないのだ。

「ついてこいよ。」

今度は、パーシーが怒鳴ると、不思議な部屋から走って出て行った。
部屋の外には、クネクネと曲がりくねった不思議な廊下が続いていた。
ものすごい速さで走り去るパーシーを追って、愛里須も、息をきらせながら走った。
シャルルは、以前のミイラだったときとは、比べものにならないくらい重くなっていた。
それはそうだろう、カサカサに乾いたミイラとは、違うのだから。

「ちょっと、女の子に、こんな重いもの担がせて、そんなに速く行かないでよ。」

いったい、この廊下はどこまで続くのだろう。
さすがの愛里須も、不安になってきた。
鏡の薄さから、てっきり、機械室は、すぐ近くなのだろうと思っていたのだ。
もう、鏡の中に入って、3分くらいは走っただろう。
だんだんと、心臓がドキドキし始めた。

「早く。早くしろー。早くこい。」

パーシーの金切り声が、廊下の曲がり角の向こうから聞こえてきた。

(パーシーのヤツ。ふざけやがって。こんなに、機械室が遠いんなら、先に言え。)

愛里須は、おもいっきり毒づきながら、廊下の角をまわった。
その先の壁に、鏡があった。
愛里須の姿を確認すると、パーシーは、あわてて鏡の外に飛び出していった。
その鏡は、真ん中がわずかに外界と通じるように波打っていたが、その他のところは、完全に、本物の鏡になっていた。
愛里須は、最後の力を振り絞ると、鏡の真ん中に向かってジャンプした。

「ギャ!」

鏡の外には、心配顔のパーシーが、鏡を見つめていた。
愛里須は、シャルルを背負ったまま、そのパーシー目掛けて、トペ・スイシーダをかましてしまった。

(いい気味だ。)

パーシーの痛そうな表情を見て、やっと愛里須の怒りは収まった。

愛里須は、背中のシャルルをパーシーに渡すと、機械室を眺めまわした。
パーシーは、シャルルを介抱することに夢中のようだ。
ついに、念願かなって妹を取り戻したのだから、無理もないだろう。
ここから先は、一人でやるしかない。
愛里須は、そう心に決めると、以前と、かなり造作の変わった機械室を調べた。
麗子の話しでは、この機械室で水門を制御しているはずだった。
もし水門が閉ざされたままだったら、これから愛里須がやろうとしている計画に支障をきたすはずだ。
愛里須は、必死で機器の制御盤のスイッチを読み取ろうとしていた。
それは、現場監督のおじさんの部屋で見たことのある、スイッチの並んだ、制御盤だった。

「これだ。」

愛里須は、やっと水門の制御スイッチを見つけると、すべて[開放]にひねるのだった。
どこか、遠くのほうで、水門が開かれていく気配が感じられた。
この異様な世界で、魔法使いと関わっているうちに、不思議な能力が身についたようだ。
見えるはずのない、そして、見たこともない水門が、ゆっくりと上がっていく光景が、頭の中に描かれていた。

愛里須は、機械室を飛び出すと、下水管の外に向かって走って行った。
外に出ると、愛里須は空に向かって、思いっきり声を張り上げて叫んだ。

「レイグン、約束のときが来たわ。いまこそ、あなたの力を貸してちょうだい。」
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「MASTER OF PUPPETS」 METALLICA
このアルバムが発表された1986年頃は、すでに知っているバンドの新譜を追うだけで手一杯なため、新しいバンドに対する興味がほとんどありませんでした。
そのため、METALLICAは、名前を知っているだけで、聴いてみようという気にならなかったものです。
最近になって、ようやく聴きました。
確かに、名盤と呼ばれるに相応しい内容です。
攻撃的なリフもいいけれど、Mr.Michael Schenkerを彷彿とさせるギターの音色には、うっとりしてしまいます。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/21

LOUDNESS 146

   Alice’s Adventures in Akabane   part.12

愛里須の部屋に、無事、生還した麗子は、怒り狂った顔で、愛里須を睨みつけた。まさに鬼の形相とは、このような顔を言うのだろう。さすがに、気の強い愛里須も、その怒りのパワーに圧倒され、動けなくなってしまった。

(今度こそ、おしまいだ。もう、赤羽に戻ることは、できない。お父さんにも、お母さんにも、もう会えない。)

絶望に襲われ、床に座り込んでしまった。

そこへ、目の痛みをこらえたパーシーが、やっと鏡の中から現れた。
愛里須のピンチを見るやいなや、麗子に飛びかかっていった。
しかし、普通に正面から麗子に立ち向かってかなうはずもなく、パーシーは麗子の身体に触れることすら出来なかった。麗子が、気合をいれただけで、パーシーは吹き飛ばされてしまうのだった。

パーシーは、大きな音をたてて、愛里須のベッドに激突した。
あまりの勢いで、ベッドは、真っ二つに折れてしまうのだった。
パーシーの毛むくじゃらな腕からは、血がしたたり落ちていた。

麗子は、憤怒の形相で、愛里須の両肩をつかむと、再び、愛里須の眼を覗き込んできた。すでに、抗う気力も無くした愛里須は、なすがままに任せるしかなかった。それでも、パーシーは、なんとか愛里須を助けようと、果敢にも麗子に掴みかかろうとし、そして、またもや、壁に叩きつけられていた。
パーシーの壁に叩きつけられる音が、愛里須の部屋に響き渡っているとき、真っ二つに折れたベッドの下では異変が起きていた。ベッドの下に置かれた袋が、一瞬、ピクリと動いたのだった。
その袋の中身は、.....そう、ミイラ化したシャルルだった。

パーシーがベッドに激突した際、傷を負ったパーシーから、血が流れ出していた。シャルルは、血の匂いにより、近くに心臓の存在を感じたようだ。
さらに、折れたベッドが、シャルルの入った袋にのしかかったことで、シャルルは完全に覚醒した。シャルルの干からびた顔の中で、はっきりと目が見開かれたのだ。覚醒したシャルルは、自分の心臓を奪ったものに対する果てしない怨念の炎を燃やすと、ゆっくりと、その腕に、脚に、全身に、力を漲らせるのだった。

その頃、麗子は、倒れたパーシーの頭を踏みつけ、そのまま踏み潰そうとしていた。その一方で、顔は、愛里須を捉え、すでにその心臓を手中に収めつつあった。
すべてが、麗子の思惑どおりに進みつつあったのだ。

その時、愛里須は、女の子の声が話しかけてきたように感じた。
それは、直接、愛里須の頭の中に、話しかけてきたのだった。
愛里須は、はじめて聞く声に戸惑いを感じた。
しかも、耳で聞こえるのではなく、頭に直接、届く声なのだから。

(もっと、こっちへ。もっと、ベッドに近づいてちょうだい。)

その声は、愛里須に、そうささやいた。

(シャルル...さん?)

愛里須は、頭の中で、返答をイメージした。

(今は、とにかく急いでちょうだい。ベッドのそばに来て。)

頭の中で、声が急かした。
愛里須は、身体を動かし、ジリジリと後ずさりしていった。
ベッドの方へと。

麗子は、後ずさりする愛里須が、最後のあがきで逃げようとしているのだと思っていた。愛里須の動きを止めることよりも、愛里須から心臓を吐き出させることに集中していたのだ。
動きの止まったパーシーは無視して、全力で愛里須の瞳に魔法の力を注いだ。その時、すでに愛里須は、ベッドの横までにじり寄っていた。そして、麗子が、愛里須の心臓を奪うべく、全ての神経を愛里須の瞳に集中させた瞬間、異変は起きた。

ベッドの下の袋を突き破って、小さなミイラが飛び出してきたのだ。
ほとんど骸骨のような身体をした小さなミイラは、大きく見開いた目に、怒りの炎を燃やし、麗子に飛びかかっていった。一瞬、なにが起きたか把握できなかった麗子は、次ぎの瞬間、恐怖に凍りついた。

ガセット一族は、心臓を奪った相手のミイラに、絶対、近寄ってはいけないのだった。

なぜなら、心臓を奪われたミイラが、唯一、ガセット一族から心臓を取り戻せるのだから。シャルルのミイラは、麗子にしがみつくと、自分の口をしっかりと麗子の口に合わせたのだった。

麗子は、恐怖で顔を強張らせていたが、次第に、全身から精気を失いはじめた。
そして、その精気を吸い取るかのごとく、ミイラとなったシャルルは、徐々に、その全身に血の気を蘇らせつつあった。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「CRAZY WORLD」 SCORPIONS
SCORPIONSの音が、一気に垢抜けてしまった1枚。(日本語、変?)
かつては、アルバムを出すたびに、ジャケットが発禁で差し替えになっていたバンドが、このアルバムから、政治色を出すようになってしまった。
決して悪いことではないけれど。
最新作「Humanity-HourⅠ」では、さらに環境問題をテーマにしているという。
「若いバンドがやらないから、俺たちがやるんだ。」
Mr.Rudolf Schenkerの言葉の、なんと重いことか。
Heavy Metalにも、こんなバンドがあるというのが誇らしい。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/14

LOUDNESS 145

   Alice’s Adventures in Akabane   part.11

愛里須は、心臓がコントロールできなくなると同時に、身体も思うように動かなくなっていた。ガセット婆さんの時は、毒を盛られて動けなくなったのだが、今回は、そうではない。
やはり麗子のほうが若い分、魔力が強いのだろうか。
愛里須の両肩をつかむ麗子の腕に、力が込められると、さらに心臓を吐き出しそうになった。

愛里須は、じりじりと手を毛布の下に滑り込ませると、パソコンの[Enter]キーをまさぐった。身体全体は動かないけれど、かろうじて、腕は少しだけ動かせたのだ。
指先が、わずかに[Enter]キーに触れるのを感じた。
愛里須は、祈りを込めて、その指に力を加えた。
パーシーの言うパスワードが、本当に正しいことを祈って。

確かに、[Enter]キーを押したはずだった。
しかし、期待も虚しく、事態はなにも変化しなかった。

(パーシーのアホ。ドジ。マヌケ。やっぱり、パスワード違ってるじゃないか。)

愛里須は、薄れゆく意識の中で、パーシーに対して、思いっきり毒づいた。

しばらくすると、愛里須は、遠ざかりつつある意識の向こうで、なにかモーターの回るような、かすかな音を聞くのだった。それと同時に、パーシーの閉じ込められた鏡の表面が、あたかも滝のごとく、水が流れるように見え始めた。
それは、グニャグニャした半透明で、ゼリー状になったようだった。
鏡に背を向けて、愛里須を捕まえている麗子には、その鏡の変化は見えないのだろう。すでに勝ち誇った顔をして、唇の端には、微笑みさえ浮かべていた。

麗子が、さらに眼力を強め、最後の仕上げに取り掛かった瞬間、鏡の表面から、2本の獣の腕が突如、出現した。灰色をした毛むくじゃらの腕は、麗子の首を後ろから絞めると、そのまま鏡の中に引きずり込んでいった。麗子は、腰から下だけを愛里須の部屋に残し、あお向けの状態で、上半身を鏡の中に埋没させた。

「アリス、足をつかめ。」

パーシーの叫びが聞こえると同時に、愛里須は、口のそばまで出かかった心臓を、ゴックンと飲み込んだ。そして、間髪いれずに、麗子の足にしがみつくのだった。
鏡から下半身だけ出した人間の姿は、非常に無気味なものだった。
しかし、今は、そんなことを考えている余裕はない。

愛里須が、麗子の足にしがみついている時、鏡の中ではパーシーが麗子の首を絞めつつ、脅しをかけていた。

「シャルルの心臓を吐き出せ。さもないと、パソコンを切断するぞ。」

パソコンを切断したらどうなるか。
麗子は、その状況を想像すると、身震いするのだった。
愛里須の部屋と、鏡の中の世界を繋げているのは、パソコンで制御されたガセット魔力。パソコンを切断すれば、鏡は元の姿に戻ってしまう。
麗子は、下半身を愛里須の部屋に残したまま、上半身を鏡の中の世界に放り出されてしまうのだ。

「やめてー。」

麗子が、恐怖の叫びをあげた。
そこには、もう、水上コテージ・プロジェクトのリーダーとしての貫禄も、ガセット魔力の使い手としての威厳も、見ることはできなかった。

「シャルルの心臓を返すは。吐き出すから、少し手を緩めて頂戴。首を絞められたままでは、吐き出せないわ。」

麗子は、観念したかのように、弱々しく訴えた。
パーシーは、慎重に手の力を緩めていった。
ついにシャルルの心臓を、取り戻すときが来たのだ。
そう思うと、ついつい、気がはやってしまうのだった。

「これだけ緩めれば、吐き出せるだろう。」

パーシーが、そう言った瞬間、麗子は、いきなり腕を伸ばし、パーシーの目に指を突っ込んできた。あと一歩で念願がかなうという状況が、一瞬の気の緩みをもたらしたか。
パーシーは、まともに麗子の攻撃を受けてしまった。

「うわっ。」

目をおさえて、うずくまるパーシーを尻目に、麗子は、鏡の世界から脱出してしまった。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「VOW WOW Ⅲ」  VOW WOW
先週のBGMは、全世界で、600万枚以上の売上を記録した「THE FINAL COUNTDOWN」(EUROPE)
今週のBGMは、「VOW WOW Ⅲ」
全世界で、いったい何枚、売れたのだろう。その前に、全世界だったのだろうか。
流れるようなメロディーでは、やや劣るものの、テクニック的には、やや勝っているはず。
なのに、この差は、なんなんだ。
やっぱり、ルックスかな。
素晴らしいアルバムなのに、あまり知られていないのが残念です。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/07

LOUDNESS 144

   Alice’s Adventures in Akabane   part.10
突然、麗子が部屋にやって来た。
それも最悪のタイミングで。
愛里須は、とりあえずパソコンの画面はそのままにして、上から毛布をかぶせると、慌ててドアを開けるのだった。

そこには、かなり酔った様子で麗子が立っていた。

「お邪魔しますね。アリスさん。」

麗子は、いつもの颯爽とした姿から想像もつかないくらい、疲れた顔をしていた。その顔は、10才くらい老けたのではないかと思えるほどだった。
そして、愛里須のベッドに座ると、しばらく、ぼんやりと愛里須の顔を眺めていた。

「あ、水を持ってきます。」

愛里須は、そんな麗子を心配して言ったのだが、それを遮るように麗子は一人で喋りだした。

「あなた、若くていいわね。そのみずみずしい肌。羨ましいわ。」

突然、麗子は愛里須の頬を手でさわり、その感触を確かめているようだった。
そして、さらに一人で喋り続けた。まるで、目の前にいる愛里須が目に入らないかのように。

「本当は前の会社をリストラされた後、しばらくは裕子と一緒に暮らしていたわ。あのビニールシートの水上コテージも二人でこさえたものよ。でもね、私は負けるのが嫌だった。負けるのが嫌だから裕子がパーシーをたぶらかしてシャルルをこの世界に連れてきた時、横からシャルルを奪いその心臓を自分のものにしたのよ。そして若さを手に入れた私は今の会社の社長に取り入って出世していったという訳。身体は若くなっても精神的には60歳近かったから、あの糞ジジイに身体をあげることなど、なんでもなかったわ。」

麗子は視線を宙にさまよわせながら、なおも続けた。

「そして、ついに夢だった水上コテージ建設も実現にこぎつけた。なにもかも、私の思い通りに動いていた。それなのに...」

麗子の形相が一変した。
その表情は、怒りに震え、まるで鬼のようだった。

「今日の会議で発表があったわ。私を水上コテージ・プロジェクトから外すって。あの糞いまいましい女。いつのまにか、社長とグルになっていたんだわ。」

麗子は、落ち着きを取り戻したかと思うと、夢を見るような表情に変わっていった。

「もうあの糞ジジイにも用はないわ。あんなジジイを頼りにするなど、こっちから願い下げよ。もう次の世代の時代なのよ。」

そして、愛里須の両肩をつかむと、顔を近づけてきた。
愛里須は悟るのだった。
このときが、やってきた。
麗子は、その鋭い眼で、愛里須の眼を覗き込んだ。
かつて、ガセット婆さんがそうしたように。

さらに麗子は、自分に言い聞かせるかのように、はっきりした口調で話しはじめた。

「私もなんだかんだで、また歳をとってきたわ。見てちょうだい。この目尻の皺。この肌の荒れ。このシミ。私には次の獲物が必要なの。今度はもっと若くて有望な男を育て上げるのよ。そのためには、私ももう一度若返らなくてはいけないの。わかるわよね、アリス。私に何が必要か。」

(わかってたまるか。)

愛里須は、そう思ったものの、自分の心臓が、自分の意志と別な動きを始めたことに気がついていた。
また、あの時のように、心臓が喉の奥から、グニュグニュと動き出したようだ。
ものすごい、吐き気をもよおしてきた。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「THE FINAL COUNTDOWN」 EUROPE
美しすぎる。このアルバム。
しかし、このアルバムが、世界的大ヒットしたってことは、いい時代でした。
今だったら、このての美しいメロディーは、あまりウケないかもしれない。
イヤな世の中になったもんだ。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/06/30

LOUDNESS 143

   Alice’s Adventures in Akabane   part.9
毎日、足しげく現場監督の部屋にかよう愛里須に、ある日、幸運が舞い降りてきた。
部屋に来るたび、物ほしそうにパソコンを眺める愛里須を見て、現場監督のおじさんのほうから話を切り出してきたのだった。

「パソコン、使いたいかい。夜だったら、持っていってもいいよ。若い子がこんなところに押し込められたら退屈しちまうだろ。たまには、インターネットでも見ないと。」

愛里須は大喜びでパソコンを借りる約束をした。
ただ、パソコンを持ち出すところを麗子にみつかってはまずいので、麗子が不在の日に借りることにした。そして、スケジュールを調べると、ちょうど明日が1日中、本社での会議に出席のため、留守になることになっていた。
部屋に戻ると、パーシーにことのあらましを説明した。
いよいよ明日、パーシーを救い出すことができるのだ。

翌日、愛里須は、朝からそわそわしていた。
夜にパソコンを持ち出したとして、翌朝までには戻しておかないといけないし、うまく操作できるだろうか。パーシーが以前、麗子の操作を見たことがあるので、だいたいわかるとは言っていたが、[だいたい]では動かないのが機械のイヤなところなんだ。
どうやって手際よく事を進めるか、愛里須は、何度も何度も頭のなかでシュミレートするのだった。

そして午後、麗子は予定通り、本社に出かけて行った。
一旦、本社に行けば、ほとんどの場合、夜中まで戻ってこないのだった。
いよいよ決行の時が近づいてきた。

愛里須は、手際よく仕事を片付けるとイソイソと現場監督の部屋へ行くのだった。
現場監督のおじさんは、相変わらず暇そうにしていたので、愛里須は適当に世間話に付き合い、頃合いを見計らってパソコンを借りる交渉をした。

「なんだ、そうゆうことだったのかい。きょうは、やけにソワソワしてると思ったよ。心配しないで、持ってきな。」

そう言うと、おじさんは気軽に一式、愛里須に渡してくれたのだった。

愛里須はパソコンを借りると、大急ぎで部屋に戻ってきた。
鏡の中のパーシーは、パソコンを見ると珍しく興奮しているようだった。

愛里須は、パーシーの指示通り、パソコンのLANケーブルをベッドの下にあった差込口に接続した。
そして、パソコンの電源を入れる。
緊張の瞬間だ。
パソコンは、問題なく起動した。
そして、画面を鏡の向こうにいるパーシーに見せる。
パーシーは、以前、見た画面と同じだと言った。
珍しくパーシーの自信満々な言葉を聞いて、愛里須は少し安堵するのだった。

パーシーは、次々に指示を出し、愛里須は画面を進めていく。
そして、ついに鏡の中の世界と接続する最後の画面にたどりついた。
このパスワードを通せば、いよいよパーシーを救い出せる。
愛里須は願いを込めて[Enter]を押した。

すると、画面には[パスワードが違います]の表示。

「なによ、違うじゃないに。」

愛里須は、思わず興奮して声を荒げてしまった。
しかし、意外とパーシーは落ち着いていた。
よほど自分の記憶に自信があるのだろうか。

「試しに[Caps Lock]解除してみてくれよ。」

愛里須の反応がチョット癪にさわったのか、不機嫌そうな言い方だった。
それでも今は、愛里須にすべて委ねなければいけない立場だから、穏やかそうにしゃべっているんだろう。

(なんだ、そんなことか。)

愛里須は、[Caps Lock]を解除すると、いよいよ運命の[Enter]を押そうとした。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。

「アリス、いるんでしょ。ドアを開けなさい。」

なんと、麗子が帰ってきてしまったのだ。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「Black Rose  A ROCK LEGEND」  THIN LIZZY
Mr.Gary Mooreが正式加入して制作された唯一のアルバム。
いかにもThin Lizzyらしいポップさあふれる曲からラストを飾る大作「ROISIN DUBH(BLACK ROSE)A Rock LEGEND」まで、バラエティーに富みつつ、どの曲の聴きやすい名盤。
ただ、ツイン・リードに関しては、ロボさんのほうが魅力的だったかも。
でも、ゲイリーさんがあと2年、リジィに踏みとどまってくれたら。日本でのリジィの評価は大きく変わったと思うと残念です。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2007/06/23

LOUDNESS 142

   Alice’s Adventures in Akabane   part.8
鏡に映るドブネズミを見ると、愛里須はあわてて自分の顔や身体を触って確認した。
麗子の魔法でドブネズミに変えられてしまったのではないかと思ったのだ。
しかし幸いなことに、手の感触からすると自分の身体は変わっていない。
それでも、鏡にはドブネズミが映っている。
不思議に思っていると、突然、鏡の中のドブネズミが喋りだした。

「アリス。アリスだろ。そこにいるのは。」

パーシーの声だ。

「あんた、またドブネズミに変えられたの。」

そう言いながら愛里須は思った。

(パーシーって、あの大根少年よりドブネズミのほうが似合ってるな。)

パーシーは愛里須と別れてからのことを鏡の中から説明した。

ガセット婆さんの魔法が解け人間に戻ったパーシーは、シャルルが生き返らないということを受け入れることができなかった。
そして以前、愛里須から言われたことを思い出していた。
 ~「でも、シャルルさんの心臓を奪ったのに、なんであんな婆さんなの。
    若返ったのなら、もっと若いはずじゃない?」~
愛里須の指摘はもっともなことだった。
シャルルの心臓を奪ったのは、ガセット婆さんではないのではないか。
そのことを確認するため、いろいろと調べ始めたパーシーは、ついにガセット婆さんに双子の妹のいることを突き止めた。
そして、あのガセット婆さんの水上コテージのあった場所に、本当の水上コテージ建設が始まること、さらに、その大規模プロジェクトの責任者がまさにガセット婆さんの妹だということも知るのだった。
パーシーは、さらに真相を探るべく、麗子の住む建設現場に潜入したのだが、そこで麗子に捕まり、再びドブネズミに変えられてしまったのだった。

「でも、パーシーが今いるところは、どこなの。」

愛里須は鏡の表面や枠を触りながら、鏡の中にいるパーシーがいったいどこにいるのか聞いてみた。

パーシーの説明によると、この鏡は、ガセット一族の魔法の力を封じ込めた鏡なのだそうだ。魔法の力でこの鏡のなかを移動できるから、鏡を置いてある場所を移動できるのだった。
今、この鏡は、愛里須の部屋と麗子の部屋、そして下水管にあるあの機械室に掛けられているらしい。麗子は、なにかしら必要を感じて、この3箇所に鏡を設置したのだった。
そして、最も重要なことは、この鏡の世界への出入は、パソコンから操作するということだった。パーシーは以前、麗子が現場監督の使っているノートパソコンを操作して、この鏡の中に入ってきたのを見たというのだ。

愛里須は現場監督の話で急に思い出した。
きょうから大事な仕事が始まるのだ。
パーシーにとりあえず別れを告げると、愛里須はあわてて作業現場に向かうのだった。

愛里須の新しい仕事は、現場の休憩所で作業員たちの世話をするというものだった。工事は、朝早くから夜遅くまで行われているので、休憩所は、つねに食事をする人やお茶の飲む人でごった返していた。
それでも、麗子が愛里須を戦力として期待していないことは明らかだし、現場監督もただ、社会見学だろう程度に考えているようなので、愛里須は、いくらでも手を抜けそうだった。
休憩所で、お茶の用意をしたり、灰皿をかたずけたりしながら、愛里須は、これからの作戦を練るのだった。
パーシーが再び、ドブネズミ姿で現れたということから、今後の展開は明白だった。麗子は、ガセット婆さんと違い、キャリア・ウーマンとして成功しているし、一見、やさしそうにも見えるけれど、やはりガセット一族に変わりは無い。
つねに警戒していなければいけないだろう。
また、愛里須の心臓を奪いに来るかもしれないのだ。
そしてまずは、パーシーをあの鏡の世界から救出することが一番と考えていた。そのためには、あの現場監督に接近して、パソコンを持ち出す必要があった。
愛里須は、空いた時間をみつけては、お茶やコーヒーを現場監督の部屋に持って行くことにした。

現場監督のおじさんは、愛里須が部屋にやってくると、嬉しそうに迎えるのだった。暇なのかどうかはわからないが、大抵、部屋にいるようだった。
これだけ大きなプロジェクトだと、細かい指示は、各セクションの責任者が行うし、より重要な指示は、直接、麗子が行うので、おじさんは手持ち無沙汰のようでもあった。
愛里須は、机の上に置かれたパソコンを見ては、どうやって持ち出すか思案するのだった。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「BLUE BLOOD」 X
音質うんぬんはともかく、全ての曲がカッコいい。
音楽に躍動感や疾走感を求めるならば最適のアルバム。
決してファンタジーではないけれど「ROSE OF PAIN」は若干そんな雰囲気です。
ライブは体験したことがないけれど、人生で一度はXジャンプしとくべきだったか。
後悔先にたたず。
と思っていたら、X JAPAN再結成が現実のこととして発表されたけれど、どうなることやら。
やるからには、yoshiki氏にCOアリーナ乱入を果たしてほしい。
とびっきりの笑顔でダイブしてこそ、X JAPAN名義で活動する意味が出てくると思います。
globe extremeやVIOLET UKでは、そんなハチャメチャできないでしょうから。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/06/16

LOUDNESS 141

   Alice’s Adventures in Akabane   part.7
愛里須は声をかけてきた人物を見ると、さらにびっくりした。
そこに立っていたのは30代位に見える上品な感じのする婦人だった。
ガセット婆さんはおそらく70代後半位だったろうから40歳以上若いだろう。
しかし、その顔立ちや声は、まさしくガセット婆さんそのものだった。
(まさか、ガセット婆さんが生きていて、だれかの心臓を奪って若返ったのでは?)
愛里須が戸惑っていると、その婦人はさらに続けた。

「あら、突然御免なさい。驚かせちゃったみたいね。私は、賀瀬戸麗子。姉の裕子からあなたのことを聞いていたので、今日はご挨拶にと思って来てみたの。」

麗子は、さらに愛里須を混乱させる話を続けた。
それは、ガセット婆さんと麗子の生い立ちから始まり、現在に至るまでの話しだった。

麗子はガセット婆さんの妹で、子供のころからガセット婆さんと二人でいつか水上コテージを自分達の手で造ることを夢見ていた。そのため二人は建設会社に勤め、夢の実現に向け邁進していた。
一時は景気も良く、二人の提案した「水上コテージ企画」も社内で認められ、大々的にプロジェクトの立ち上げとなるのだった。しかし、プロジェクト発足と時を同じくしてバブル崩壊という社会現象にのみこまれ、資金調達が不可能となりプロジェクトは頓挫。その責任をとらされる形で二人は会社を追われたのだった。
その後のガセット婆さんの転落は、以前本人から聞いた通りだった。
しかし、妹の麗子は諦めることなく他の建設会社に勤め、一から地道に実績を積み上げることにより現在の地位を獲得。ついに念願の「水上コテージ企画」を会社に認めさせることに成功したのだった。
そして、ガセット婆さんと二人で夢見たこの川岸に、とうとう水上コテージの建設が始まった。

「あなた、うちの会社が管理する水門の制御室に出入りしているそうね。」
麗子が愛里須を訪ねてきたのは、実は愛里須が住んでいた機械室が麗子の会社の管理下にあるためだった。
水上コテージ建設にあたって一番の問題点が洪水に関するものだった。
そして川の水位をコントロールするためにも、水門の制御を見直す必要がでてきたのだ。
しかし、肝心の制御室に浮浪者が住みついているという噂を聞き、以前、ガセット婆さんから愛里須のことを聞いていた麗子が確認に来たのだった。

麗子は、一通り愛里須に事のあらましを説明すると、機械室からの立ち退きを告げた。
ただ、ガセット婆さんと愛里須の関係を考慮し、一時、水上コテージの建設現場に住み込みで働かないかと提案してきた。
他に行く当てのない愛里須にとっては、もちろん否はなかった。

愛里須は、ホームレス生活の中で徐々に集めてきた身の回りのものは持っていくのをあきらめることにした。
麗子が生活に必要なものは、そろえると約束してくれたのだ。
そして、シャルルのミイラを箱から出すと、壊れないよう慎重に毛布でくるみ、袋に入れたのだった。ミイラとなったシャルルは小さく、また、とても軽いので、愛里須は一人で建設現場までその袋を担いで行くことは造作もなかった。
愛里須があてがわれた部屋は、こじんまりしていたけれど、思ったよりきれいだった。
しかも、うれしいことに一人部屋だった。
建設現場の住み込みというから、てっきり大部屋でベットだけという生活を想像していただけに、これだけで充分幸せに感じられた。
(今までの生活より、かなりマシだわ。)
部屋には小さなベットが一つ。そして、壁にはなぜか大きな鏡が取り付けてあった。

愛里須は、ベットの下にシャルルのミイラを隠すと、麗子に連れられて、現場監督に挨拶しに行った。
現場監督はすごく人の良さそうなおじさんだった。
なぜ愛里須のような子供がここで働くのかということにも、特に疑問を持っていないようだった。
麗子は一応、愛里須を自分の姪と紹介した。
将来、建築デザイナーに育てるため、ここで社会勉強をさせるのだと説明した。
現場監督のおじさんは、やさしく愛里須に施設の案内をしてくれた。

「この水上コテージはすごいぞ。どんな洪水にも耐えられるように設計されているんだ。床下の柱は、油気圧式で伸縮して、最大で5mの高さまでコテージを上昇させるのさ。」
現場監督のおじさんは、そう言うと、自慢げに水上コテージ下の柱を指さした。
水位が上がると、自動的に水上コテージ全体を上昇させるのだそうだ。

現場監督への挨拶が済むと、ようやく愛里須は開放された。
きょうは1日、なんかすごく慌しかった。
突然、ガセット婆さんの妹を名のる麗子が現れ、ようやく慣れてきた機械室から引越しをして、新しい仕事の説明を受けて.....

明日から、どんな生活が待ち受けているのだろう。
少し不安もあるけれど、この世界に落ちてきた当初に比べれば、なんということもないだろう。
本当に強くなった。
愛里須は、つくづくそう思うと、明日のためにきょうは早寝をすることにした。
久しぶりのベットで、愛里須はぐっすり眠るのだった。

翌朝、愛里須は明るい日差しで目を覚ました。
朝日で目覚めるなんて、なんて素敵なんだろう。
愛里須は、久しぶりに人間の生活に戻ったような気がした。

(これからは、身だしなみにも注意ちなくちゃね。)
着替えを済ませると、愛里須は、壁にはめ込まれた大きな鏡に全身を映して、服装のチェックを始めた。きょうから新しい仕事につくのだから、他の人にいい印象をあたえなければと思ったのだ。

鏡の前に立った愛里須は、そこに映し出された姿を見て、心臓が止まりそうなくらい驚いた。
鏡に映っているのは、なんと大きなドブネズミだったのだ。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「Trilogy」 Yngwie Malmsteen
ファンタジーといえばこの人。絶対にはずせません。
もう1曲目の頭から全編ファンタジーです。
ジャケットもすこぶるファンタジーです。
黒雲の間から一条の光が射しこんでいるところがポイントです。
邪悪なドラゴンに立ち向かうギター・ヒーローに射しこむ希望の光。
ただ、インギー様の上半身と下半身のバランスがイマイチなのが残念です。
アルバム・ラストを飾る「Trilogy Suite Op:5」はお約束のカッタマリです。
ぜひ聴いて下さい。


<余談>
最近、巷を賑わしている眞鍋かをりさん。

えー、またー。

ってな感じです。

なんか、SPEEDがデビューしたときみたい。

えー、またオキナワー。

って思いました。あの当時。

でも、実力があれば、柳の下にドジョウは3匹でも、4匹でもいるんですね。


で、その眞鍋かをりさんなんですが、気になるのは、肩書きが

「元・ブログの女王」

ってとこ。

それは違うでしょ。

「元祖・ブログの女王」か「本家・ブログの女王」だったらまだわかるけど。

「元」ってのは、なんなんだ。

やっぱり、「ココだけの話」は内容的に他を圧倒してるし、

その文体が後のブログ界に与えた影響たるや、ものすごいですよ。

ほかのタレント・ブログも最初は「眞鍋式ブログ文体」の模倣だったし。

逆に、オリジナルを追及したものは、みんな同じような内容になってるし。

やっぱり、「元祖」を越すのは難しい。

Mr.Yngwie Malmsteenが「新ギター・ヒーロー」として出現した時、

その後、発生した、インギー・クローンと言われた多くのギタリスト。

「インギー式様式美」を追求するか、「独自のオリジナリティー」を模索するか。

難しい選択を迫られたことでしょう。

と、いうことで、

今現在、「ブログの女王」ってどなたなんでしょうか。

いろいろ探しました。

で、発見。


上原多香子さんのブログ。

ギザスゲーーーー。

なにがスゴイかって。

改行、1コも使ってねーデス。

イマドキ、改行を、1コも...1コもですよ。

ツカッテネーーー。

この純真さ。

ブログ界に咲いた、一輪の白い睡蓮とでも申しましょうか。

最近のブログや、携帯小説がお気に召さない御仁。

ぜひ、上原多香子さんのブログ、ご覧になってください。

ところで、あまり改行すると、ディスクの容量って喰うのかなー。

貧乏性だから、つい、そんな心配してしまうのでした。


<余談 その2>
Concerto Moon 再始動だそうです。
ドラムは、長田昌之氏だそうです。
8月には、ライブだそうです。
詳しくは、オフィシャルHPにて、ご確認ください。
いろいろエロエロあったけど、まずは、よかった。
長田さん、大好きです。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/06/09

LOUDNESS 140

   Alice’s Adventures in Akabane   part.6
打倒!ガセット婆さんは達成したものの、パーシーがいなくなったため愛里須は一人、下水管の機械室で生活を始めた。
シャルルのミイラが入った箱はそのままなので、ここにいればいつかパーシーと会えるかもしれない。
去り際のパーシーのセリフは、いかにも自分勝手なものだし、愛里須としては頭にくること甚だしいけれど、最愛の妹がミイラのまま元に戻る望みがなくなったことを考えれば、あのセリフも致し方ないかと考えるのだった。
(私も随分と大人になったわ。)
愛里須はこの世界に来てからの自分の成長が誇らしくもあった。
でも、できればこの成長した自分の姿をお父さん、お母さん、そして先生にも見て欲しい。誉めて欲しい。
(まだまだ子供かな。)
話す相手もいなくなり、自問自答する毎日だった。

そして、機械室での一人の生活も3ヶ月が経とうとしていた。
川岸の藪はレイグンの起こした洪水で根こそぎ持っていかれたかのようだったが、あっという間に再び繁り始めていた。
しかし、最近どうもあの水上コテージのあったあたりが騒々しいと思ったら、なにか大掛かりな工事が始まっているようだった。時々、杭を打つような大きな音がしていた。
ただ愛里須にとって、あの水上コテージのあった場所は好きにはなれなかったので近寄ろうとは思わなかったし、なにを建てているのか興味もなかった。

そんなある日、愛里須は心地良い陽射しを浴びながら下水管の出口に座って、お昼の焼肉弁当を食べていた。
相変わらず空き缶集めに精を出す毎日というのは変わりなかったけれど、食い扶持が一人に減ったので時々、まともにお弁当を買うこともできたのだった。
そんな愛里須の耳に二羽のカラスによる騒々しい会話が聞こえてきた。
勝ち組カラス夫人と負け犬カラス夫人のようだった。

負け犬カラス:「奥様、いつもいい艶してるわね。その風切り羽根。」
勝ち組カラス:「宅の主人がいい脂を取ってきてくれるのよ。」
負け犬カラス:「羨ましいわ。御宅は巣も鉄筋造りなんですってね。」
勝ち組カラス:「ええ、主人がハンガーを取ってきてくれるんですわ。」
負け犬カラス:「あら、よくハンガーなんて見つかるものね。」
勝ち組カラス:「もう主人が強引で、シャツなんか干してあってもはずして
        持ってきちゃうのよ。」
負け犬カラス:「まあ、力強いご主人だこと。うちのなんて、木の枝だってろくに
        取ってきやしないのよ。そのくせ、小説家になるなんて夢みたい
        なこと言って、いつもぼんやりしているし。」
勝ち組カラス:「それは大変ねえ。なにか困ったことがあったらいつでも
        おっしゃってね。」
負け犬カラス:「奥様にそう言っていただけると、本当に嬉しいわ。」
勝ち組カラス:「オッホッホッホ...」
負け犬カラス:「アッハッハッハ...」

あまりの白々しさに愛里須は嫌気がさし、本性をあばきたいという衝動にかられた。
(勿体無いけど、せっかくの焼肉を一切れ無駄にするか。)
そう考えると、愛里須は二羽のカラスからちょうど同じ位の距離のところに焼肉を一枚、放り投げた。
その肉を見た瞬間、二羽のカラスの会話が途絶えた。
カラス達は、肉切れに穴があくのではないかと思うほど、じっと見つめていた。
かと思うと、勝ち組カラス夫人がいきなり動いた。肉をくわえると一気に大空に羽ばたいていったのだ。
しかし、勝ち組カラス夫人が肉をくわえて飛び立つのを見ると、負け犬カラス夫人の表情が一気に憤怒の形相に変わっていった。

負け犬カラス:「所詮、あんたとあたしは違う身分なのさ。
        情けない主人のお陰で一人でなんでもこなしてきあたしが
        アンタみたいに、チャラチャラした生活送ってる奴に
        負けるとでも思ってんの。」

そう言うと、負け犬カラス夫人は勝ち組カラス夫人を追って飛びたった。
二羽のカラスは壮絶な空中戦をくりひろげた。勝ち組カラス夫人はなんとか逃げきろうと急ターンを繰り返すものの、地力の差は歴然で、4回目のターンの際、その動きを読んだ負け犬カラス夫人に先を越されてしまった。
負け犬カラス夫人は、反転すると勝ち組カラス夫人の風切り羽根めがけて強烈な一撃を喰らわせるのだった。勝ち組カラス夫人は、美しい風切り羽根をズタズタにされると、焼肉を落っことし、泣きながら逃げていくのだった。
負け犬カラス夫人は、落ちていく焼肉を空中で華麗に受け止めると勝ち誇った顔をして悠然と飛び去っていった。

そんなカラスの闘いをほくそ微笑ながら眺めていた愛里須の目に、二羽のカラスが飛び去った先の川岸から一人の婦人が近づいてくる姿がはいってきた。
その婦人は、川岸の工事現場のほうからやって来た。
逆光のため顔は見えなかったが、遠目にも高級そうに見えるスーツを颯爽と着こなし歩く姿は自信に満ち溢れていた。
その婦人は愛里須の前までくると突然、
「あなた、アリスさん?」
と声をかけてきた。
愛里須は心臓が止まるかと思うほどびっくりした。
その声は、絶対に忘れられない声だった。
そう、ガセット婆さんの声だ。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「AFTER THE DOUBLE CROSS」 Concerto Moon
日本を代表するファンタジスタ(意味が違う?)島紀史氏、渾身の力作。
とにかく、和製ファンタジー・メタルの最高峰を極めた作品。
すべての曲が「お約束」でありながら、だからこそ聴いていて満足できる内容に仕上がっている。そして、その楽曲を構成する各メンバーの演奏力の高さがこのアルバムを最高傑作たらしめている。
ファンタジー好きな人はもちろん、そうでない人にもぜひ聴いていただきたい作品です。
 *注 ここでいう「ファンタジー」とは、「メロディアス・ハード」と
     読み替えていただくとわかりやすいかもしれません。


<余談>
本当は、「DESERT OF LOST SOULS」(DOUBLE DEALER)を、きょうのBGMにするのがタイミング的に本筋だと思ったけど、やっぱり島さんのギターはコンチェのほうが似合ってます。
ところで、特典DVD、「白」っなってたけど、「黒」バージョンもあるんでしょうか。


<余談 その2>
先日、電車の吊り広告で目にとまりました。
長澤まさみさんが「デトロイト・メタル・シティ」にはまってるって。
迂闊にも、まったく知りません。「D・M・C」って。
なんか、一部で熱狂的に流行っているとか。
ちょっと、見てみたいような気がするのでした。


<余談 その3>
小説「赤羽のアリス」も、先週で[めでたし。めでたし。]となる予定だったのに、ラウドネスさんがまったく音沙汰なしなもんで、当分、継続しそうです。
このままだと7月中旬くらいまで連載しそうな勢いです。
いくらなんでも、7月頃にはツアー・スケジュールとか発表になるでしょう。
われらがラウドネスさんも。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/06/02

LOUDNESS 139

   Alice’s Adventures in Akabane   part.5
愛里須が意識を失いかけていると、愛里須の気配を察知したシーラ二世がトイレの穴から嬉しそうに顔を覗かせた。
シーラ二世は呑気そうな顔で愛里須にエサをねだろうとしたようだったが、愛里須とガセット婆さんの只ならぬ雰囲気を察すると、一転、すぐに水中に逃げようとした。

「シーア、らるれて。そのハハアは、はならのおはあはんをあいてあへあのよ。」
殆ど呂律のまわらなくなった愛里須は、かつてガセット婆さんがシーラ二世の母親を焼いて食べたことをなんとか伝えようとした。
愛里須は口からヨダレをだらだらと垂らしながら、なおも訴えかけた。

「シーア、おねあい。あうえて。」
一旦、水中に姿を消したシーラ二世ではあったが、愛里須の必死な思いが通じたのか、再び水面に姿を現すと愛里須の瞳をまじまじと覗き込むのだった。
そして、またもや水中に姿を消した次の瞬間、おもいきり尾びれで勢いをつけたシーラ二世は水面から宙に飛び出すと、ガセット婆さんの肩口に噛み付いたのだった。

「ギャー。このろくでなしの脳たりんのバカ魚。なにしやがる。」
ガセット婆さんの叫びを聞くと、愛里須は最後の力をふりしぼり、トイレから這い出した。
水中コテージの部屋の中には、先ほど愛里須が暴れたため、棚に並べられたものが散乱していた。
愛里須は無駄と知りながらも、醤油の瓶や茶碗などをガセット婆さんのいるほうに向けて投げつけた。
そんな愛里須の手が、硬く重いものに触れるのだった。
あの棚に並んでいた、龍の置物だ。
この硬さなら、当たりどころがよければ上手くいくかもしれない。
愛里須が最後の願いを込めてガセット婆さんめがけて龍の置物を投げつけようとしたとき、龍の置物に巻かれた鎖に小さな南京錠がかかっているのが目にはいった。
その南京錠を見た瞬間、愛里須はパーシーから預かった鍵の存在を思い出していた。
ガセット婆さんが恐れていたと思われる鍵。
そして、この龍の置物に巻かれた鎖にかかっている南京錠。
愛里須はしびれて動かない指に何とか力をこめると、ポシェットから鍵を取り出し、南京錠に挿そうと試みた。
指に力が入らないため何回か失敗しながらも、最後の集中力を込めると遂に鍵を南京錠に挿すことに成功した。
その時、ガセット婆さんはシーラ二世を何とか振り払い、再び愛里須の所にやってくると愛里須の両肩をつかみ、瞳を覗き込むのだった。
愛里須はほとんど心臓が口から飛び出しそうになるのを感じながら、南京錠に挿した鍵を思いっきり回した。
次の瞬間、愛里須とガセット婆さんの間に小さな爆発のような突風が吹き、二人をはね飛ばすのだった。

水上コテージの中から川岸にはね飛ばされた愛里須は、ガセット婆さんが反対側の川に落ちるのを確認した。
そして、同時に水上コテージの青いシートを突き破って、龍が空に向かって昇って行くのを見たのだった。

「アリス、こっちだ。」
そこへ、どこからともなくパーシーが現れると、動けない愛里須を、あの下水管の方へ引きずって行くのだった。
藪の中を引きずられて、愛里須は自分のお尻や足が傷だらけになってしまうのではないかと思ったが、身体が麻痺していて痛みはまったく感じなかった。
それでも、朦朧とした意識の中で、(引きずらないで、肩に担ぐとかできないの。)とパーシーを毒づくのは忘れなかった。
よく考えると、ドブネズミに肩はないから、肩に担ぐことはできないだろうけど。
ただ愛里須は身体が麻痺して声も出せない状態であり、もはやパーシーに任せるしかなかった。
パーシーは愛里須を下水管の出口まで引きずっていくと、どこかに姿を消してしまった。

龍が空に吸い込まれて消えてしまうと暫くして、空が急に黒雲に覆われ出した。
あたりは夜のように真っ暗になったかと思うと雷鳴が轟き、ポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
あの日、愛里須がこの世界に落ちてくる前に赤羽駅で見たような光景が、再び愛里須の眼前に広がりだした。
雨は激しさを増し、風も吹き出し、川岸の藪が大きく波うってきた。
藪が風に煽られて倒れると、その隙間からかなり増水し始めた川面を見ることができた。
川ではガセット婆さんが溺れそうにもがいていたが、しばらくするとなんとかあの水上コテージだった釣り師用の台にたどり着いたようだった。
ガセット婆さんご自慢の水上コテージは、すでに青いビニール・シートも吹き飛び、畳もなくなり、単なる川に突き出した板と柱だけになっていた。
あまりに激しい雨のため、すでに愛里須のいるところからは、ガセット婆さんの姿はほとんど見ることができなくなっていた。
雨煙の向こう側にかすかに見えるガセット婆さんらしき影は、一度は釣り師用の台によじ登ったかに見えたが、ちょうどその時、上流から押し寄せた濁流に飲み込まれると再び見えなくなった。
濁流はさらに激しくなり、川岸の藪をも飲み込むと、下水管の出口のすぐそばまで迫っていた。
愛里須は動けない身体で、その光景を眺めるしかなかった。
しかし、黒雲の隙間から一条の光が差し込んだかと思うと、あれだけ激しかった風雨も収まり序々にあたりは明るさを取り戻し始めた。
しばらくすると、雨は完全にやみ、あたりは嘘のように晴れ渡るのだった。
ただ、川だけはまだ濁流がゴーゴーと音をたてていて、ついさっきまで大嵐だったことをあたりに示していた。
雲ひとつない真っ青な空からは、何やらクネクネとしたものがゆっくりと降りてきた。
毒が中和されはじめたのか、ようやく起き上がることができるようになった愛里須の目の前に、そのクネクネは近づいてくるのだった。
それは、身の丈10mはあろうかという龍だった。
その龍は愛里須の前に降り立つと語り始めた。

「少女よ。汝、戒めより我を救いたもうた。我この恩義、永遠に忘れること無し。しかし、ガセット一族は滅びず。
少女よ。ガセット一族、いつかまた汝に災いをもたらさん。さすれば我、再び雷神として汝の前に出でよう。
我名はレイグン。嵐を司る神なり。」

そういい残すと、龍は突然、一条の光となり天空向けて飛び去っていった。
愛里須はあまりの出来事に呆然と見送るしかなかったのだが、一人で勝手に喋り、勝手に去って行った龍のことを(恥ずかしがり屋なのかなあ)と思うのだった。
でも、何か災難が襲ってきた時は、また助けてくれそうなことを言っていたのが心強かった。

「アリス。」
その時、唐突に聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえてきた。
「パーシー、どこいってたのよ。」
振り向くと、そこに一人の少年が立っていた。
「パーシー、魔法が解けたのね。」
そう言いながら、愛里須はちょっとがっかりしていた。
普通、魔法が解けるとそこに現れるのは王子様のはずだし、愛里須は勝手に金髪碧眼の美少年を想像していたからだ。
愛里須の目の前に立つのは、大根のような顔の細っこい少年だった。
(やっぱりね。赤羽だもんね。)
愛里須は一人、納得するのだ。
しかし、パーシーの魔法が解けたということは、やはりガセット婆さんは亡くなったということだろう。
では、シャルルはどうなったのだろうか。

「お前、約束破ったな。あのババアからシャルルの心臓を取り戻すって約束を。」
愛里須は顔から血の気が失せていくのを感じていた。
やはりシャルルはミイラのままということだろう。
「しょうがないでしょ。こっちは心臓取られそうになってたのよ。だいたいアンタ、シャルルの心臓を取り戻すためあのババアと取引してアタシをこの世界に連れてきたんでしょ。早く帰り方教えなさいよ。」
愛里須も本来の気性の激しさを取り戻し、パーシーにあたっていった。
「お前なんか大嫌いだ。お前なんか、一生ここで浮浪者やってろ。」
そう叫ぶとパーシーは下水管の中に走り去っていった。
「待ちなさいよ。赤羽への帰り方、教えてよ。」
愛里須はあわててパーシーを追いかけようとしたが、まだ身体が思うように動かず下水管で思いっきり転んでしまった。
あっという間に見えなくなったパーシーの消えた方向を見ながら、愛里須は呆然自失するしかなかった。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「DESTROYER~地獄の軍団」 KISS
ファンタジーのお約束、ドラゴン登場。とは言っても、ヨーロッパ風ドラゴンではなく、東洋風龍だけど。
曲のイメージは「God Of Thunder」。
アメリカン・ロックのKISSと、ヨーロッパ的ファンタジーは無縁のような気がするけれど、
このジャケット・デザインが、KISSのメンバーさえ描かれていなければファンタジーっぽい絵になってます。
って、KISSのメンバーが描かれてなきゃ意味ないじゃん。というオチでした。
でも、モンスターブーツとか、猫男とか、スペース・エースとか、スター・チャイルドとかって、KISSはやっぱりアメリカ的ファンタジーを体現しています。
しかし、このアルバム、本当に名曲揃いです。久しぶりに聴いたら、また惚れ直してしまいました。


<余談>
きょうも、ラウドネタはありません。
オフィシャルHPにも、とくにネタはありません。
ただ、「渋谷ジャック」の告知が削除されただけ。
それと同時に、バイオグラフィー等へのリンクも削除されてしまったようです。
というよりも、あわてて告知を削除するんで、古いバックアップに戻しちゃったんだろうか?
とにかく、不思議な存在のオフィシャルです。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/05/26

LOUDNESS 138

   Alice’s Adventures in Akabane   part.4
それからさらに1ヶ月が過ぎようとしていた。
相変わらず空き缶集めの日々は続いたものの、愛里須もだいぶコツをつかんだのか、かなり楽に集められるようになっていた。各団地の資源ゴミの日を全て頭に叩き込み、さらに集めた空き缶を運ぶのに使い勝手のよさそうな乳母車を手に入れることが出来たことも大きかった。
やはり乳母車はホームレスの必需品なのだ。
ガセット婆さんは、愛里須が拾ってきた乳母車を見たとき欲しがったが、これだけは譲れなかった。苦労してやっと見つけた乳母車なのだから。ガセット婆さんも珍しくそんな愛里須を尊重してか、無理に奪うことはしなかった。愛里須は乳母車の車軸に油を注したり、カバーの綻びを繕ったりと手入れを怠ることはなかった。
「あたしって結構、順応性ありかも。」
しかし、ガセット婆さんはまだ愛里須に空き缶集めしかさせなかった。
日々の生活の基になる残飯集めは、まだガセット婆さんが一人で行い、愛里須とパーシーはガセット婆さんから残飯を譲り受けるのだった。やはり、ガセット婆さんは他人を信用していないようだ。命にかかわる大切な食事だけは、自分で見つけた物しか摂らないようだった。

愛里須は生活に少し余裕を見つけたため、余った時間を利用しては下水管の中を歩きまわるのだった。このままでは、いつパーシーに帰る方法を聞きだせるかわからないし、できるだけ自分でも帰り道を探ろうと思ったのだ。しかし、この世界に落ちてきた時に見た景色は気が動転していたためか、まったく覚えていなかった。さらに、どこをどう歩いて下水管の出口にたどり着いたかもわからなかった。大体が下水管の中など、すべて同じ景色に見えるに決まっているし。
そんなある日、網の目のような下水管を隈なく調べるうちに、とうとう最初に落っこちてきた場所を発見した。そこは天井から金属のワイヤーが垂れ下がり、そこの愛里須が無くしたポシェットが引っかかっていたのだ。何故だかわからないけれど、ポシェットが天井付近に引っかかっていたのは幸いだった。下に落ちていたら水びたしになっていただろうし、第一、見つけることもできなかっただろう。
無くしたポシェットを見つけたことで、愛里須は少し希望を持つ事ができた。
ポシェットの中の携帯を取り出すと、幸い水没している様子はなかったし、バッテリーも切れていないようだった。
愛里須はかすかな期待に胸を膨らませつつ、携帯をかけてみた。
[ツー、ツー、ツー。]
ほとんど予測された通りの無機質な結果が、携帯の向こうから愛里須の耳に届くのだった。
「ま、こうなるよね。」
愛里須は一人、納得するとその周辺をさらに隈なく調べ始めた。
ここからこの下水管に落ちてきたのだから、何かしら出入口があるはずだ。しかしいくら捜しても、あの宇宙空間に続きそうな穴などどこにも見つけることはできなかった。ごくわずかな希望も徒労に終わりそうだった。
愛里須は再び落胆に肩を落とすと以前にも増して疲労感を漂わせながら下水管の外に出るのだった。最後に僅かな期待をこめて携帯の画面を眺めてみたけれど、やはりアンテナはまったく表示されなかった。
結局なんの進展もなく、今日もガセット婆さんの水上コテージに戻るのだった。

そんな愛里須の落胆を知ってか知らずか、ガセット婆さんは妙に機嫌がよく、なんと愛里須をおやつに誘ってきた。
「今日はケーキが手に入ったのじゃよ。」
愛里須は、この世界にきて初めてのお菓子によだれが出そうだった。
ケーキと紅茶。
頭の中で、本当に水上コテージでリラックスする自分の姿を想像しながら愛里須はなんとか束の間の幸せを感じようと努力していた。そして、久しぶりに食べるケーキの美味しさといったら、本当に天国にいるのではと錯覚するほどだった。

「お前、パーシーからシャルルの話しは聞いているかい。」
愛里須が幸せな気分に浸っていると突然、ガセット婆さんはよりによって一番いやな話を振ってきた。
愛里須の脳は一気に緊張の度合いを高めると、なんと答えるべきか模索しはじめた。ところが一向に答えが見つからない。何故か、脳がストライキを起こしているとしか思えないほど、意識が緩慢になってきた。
そんな愛里須の様子を眺めながらガセット婆さんは満面の笑みを浮かべると、一人で喋りはじめた。
「何故パーシーがお前をこの世界に導いたか教えてやろうか。パーシーはシャルルの心臓を取り戻したがっていたから言ってやったのさ。代わりの女の子を連れてきたら、シャルルの心臓を返してやったもいいってね。」

愛里須の脳では非常ベルがけたたましく鳴り響いていた。
しかし、身体が妙にだるくなってきた愛里須は動くことができなかった。
「パーシーはあたしと取引したんじゃよ。」
ガセット婆さんは微笑みながら愛里須の目をしっかりと見据えていた。
あの目。あの目を見てはいけない。愛里須はそう感じたものの身体は思うように動かず、さらにガセット婆さんの瞳に吸い込まれそうになっていった。
ケーキか紅茶に毒が盛ってあったのだろうか。
だるい頭でそんな事を考えながら愛里須は最後の抵抗を試みていた。立ち上がることが出来ない身体を何とか暴れさせ、もがきながらトイレの方へ転がって行った。そんな愛里須を、勝ち誇ったような顔をしたガセット婆さんが追いかけてきた。トイレの穴を挟んで、愛里須とガセット婆さんは向かい合うと、再びガセット婆さんの瞳が愛里須の視界に迫ってきた。
愛里須は、自分の心臓が自分の意志と別に動きだすのを感じていた。
心臓が胸からドクンドクンと動き始め、喉の奥から口のほうへと近づいてきた。愛里須は思わず吐き出しそうな気分になってきた。
「もうだめだ。」
薄れそうになる意識の中で愛里須は絶望的な気持ちになっていくのだった。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「DOOMSDAY MACHINE」 ARCH ENEMY
ついに本性を現したガセット婆さんは、ARCH ENEMY聴きながらイメージしました。
ファンタジー的要素は薄いけれど、破滅的イメージは一種のファンタジーかも。
ドラムのツー・バス「ドコドコドコ...」って、単純だけど好きです。
このアルバムを最後に脱退したMr.Christopher Amottの復帰も決まり、今後もARCH ENEMYから目が離せません。


<余談>
明日は「渋谷ジャック」だそうです。行かれるかたは楽しんできて下さい。

と、ここでよそのブログ眺めてたら、我らがラウドネスは出ないとか書かれてる。
オフィシャルにはなにも書かれてないし。どーなっとるんじゃ。
ま、今回は最初からパスだったからいいけど。
なにはともあれ、ラウドネスにとって有益なイベントに出てほしいですね。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/05/19

LOUDNESS 137

   Alice’s Adventures in Akabane   part.3
愛里須は焦っていた。
この訳のわからない世界で、訳のわからないことが次々と襲ってくるので、もうイヤになっていた。ほんの1時間ほど前までは、ごく普通の生活をしていたのだから。それがこの変てこな世界に落ちてきてしまったのはパーシーを追いかけた結果なのだし、パーシーは赤羽駅と行き来できるはずなのだから、元の世界に戻るには、その方法をパーシーから聞き出すしかないのだった。
「おやおや、このクソガキがまた他人の召使に向かって、何因縁つけてるんじゃ。」
しかし、ここでガセット婆さんが話しに割って入ってきた。愛里須は咄嗟に悟るのだった。ここではガセット婆さんが一番偉いのだろう。
パーシーから何か聞き出すためには、ガセット婆さんの信用を得なければならないのだろうと。
「御免なさい、お婆さん。わたし、パーシーを捜していたものだから、ようやく見つかって、つい話しかけてしまったの。」
愛里須が下手にでると、ガセット婆さんはしてやったりという顔をして、機嫌を直してくれたようだ。行く宛のない愛里須を、とりあえず召使見習として水上コテージに住まわせてくれることになった。
「明日からパーシーにいろいろとやることを教わりな。」
そう言うとガセット婆さんは愛里須にボロボロの毛布と、僅かばかりの寝るためのスペースを与えてくれたのだった。
夜になるとパーシーはどこかに消えてしまった。本当は夜の内にでもパーシーと話しをしたかったのだが、へんな行動を起こして、またガセット婆さんの機嫌を損ねては大変なので暫くはおとなしくしていることにした。

翌日から、愛里須はパーシーと行動をともにすることになった。愛里須にとっては願ってもないことだ。
これでパーシーから話しを聞くことができる。しかし、この目論見は大きくはずれた。パーシーの作業は愛里須のように育ちのいいお嬢さんにとって思いのほかきつかった。
まずは空き缶集め。
街のゴミ捨て場を漁って空き缶を集めるのだった。これが思ったよりもかなりきつく、しかも殆ど集まらない。作業中にパーシーに話しを聞く余裕などまったくなかった。そして、集めた空き缶を保管するのは、あの愛里須が落ちてきた下水管の中にある機械室のような部屋だった。
部屋の中には壁の一部に何かの制御板のようなスイッチのついた板があり、緑のランプが点いてた。
パーシーの集めた空き缶は潰して袋詰にされていた。パーシーはかなり几帳面のようで、袋はアルミとスチールに分けられ、棚に綺麗に積まれていた。空き缶は月2回、回収場所に持って行き現金に換えるのだった。
そして、愛里須の次の作業は空き缶潰し。これもやってみると思ったよりかなりしんどかった。
結局、空き缶を潰す時もパーシーに話しかける余裕はなかった。
ところで、その機械室には何か大きな箱が一つ置かれていた。一人黙々と空き缶と格闘する愛里須を尻目に、パーシーは時々、その箱に何か話しかけているようだった。

空き缶潰しを終えると愛里須に与えられたもう一つの仕事、シーラ二世への餌やりをするのだった。
これはただ愛里須達の残した残飯をシーラ二世に与えるだけなので、簡単な仕事だった。ただ、シーラ二世はガセット婆さんにとって大切な僕なだけにその体調管理はきちんとするようにと言われていたけれど。
シーラカンスの体調なんて、どう管理するのだろう。だいたいが、愛里須達の食べるもの自体が残飯なのに、その残り物の残残飯を与えられて喜んでいるシーラ二世はなんて可哀想なんだろう。
愛里須は自分の不幸を呪うと同時に、シーラ二世も不憫に思い、自然とやさしく語りかけながら残残飯を与えるのだった。
そんな愛里須をシーラ二世は認識したのだろうか、最初は川に残残飯を投げ込まないと寄ってこなかったのが、徐々に愛里須の気配を感じるだけで水面に顔を出すようになってきた。

この世界に落ちてきて1週間も経っただろうか、空き缶集めにも慣れ、機械室で空き缶を潰す作業も楽に感じられるようになったある日、珍しく愛里須はパーシーと2人きりの時間を持つことが出来た。
愛里須はハンマーで、このいまいましい空き缶を潰しながらパーシーに話しかけた。
「あなたは、何処から来たの。」
パーシーも空き缶を潰す手を休めることなく答えた。
「赤羽から。」
そう、パーシーもやはり愛里須と同じ世界から来たのだった。
パーシーの話しは、とても奇妙なものだった。いや、もちろんこの世界自体、奇妙なのだから、尤もな話しとも言えたが。
パーシーがこの世界に落ちてきたのは10年位前だという。なんでも赤羽の公園で遊んでいたところガセット婆さんに声をかけられ、ついて行ったらこの世界に落ちてしまったそうだ。
そして、ガセット婆さんの魔法でドブネズミの姿に変えられ、以来10年近くガセット婆さんの召使をしているのだ。
そんなパーシーが、急に悲しそうな顔をして機械室の中にある大きな箱を開け、愛里須に中を見るよう促した。
箱を覗き込んだ愛里須は思わず息を呑んだ。箱の中には、人間と思われるものの干からびたミイラが横たわっていた。
「妹のシャルルだ。」
パーシーは、今にも泣き出しそうな声でそう言うと、慎重に蓋を閉めるのだった。
かつてパーシーはこの世界での毎日に寂しさを募らせ、つい元の世界に行ってしまったそうだ。元の世界への行き方はガセット婆さんがすぐに教えてくれたらしい。そしてドブネズミの姿のまま、元の世界で妹のシャルルに出会ったところ、シャルルにはそのドブネズミがパーシーであることがすぐにわかったらしく、あとをついてきてしまったのだ。
しかし、ガセット一族には、少女の心臓を奪う能力もあり、心臓を奪うと、その分若返ることができるのだった。
おそらくガセット婆さんは、パーシーの妹の心臓が欲しくて、パーシーに元の世界への行き方を教えたのだろう。まんまとガセット婆さんの策略にはまったパーシーは、ガセット婆さんの望み通りに妹のシャルルをこの世界に呼び込んでしまったのだった。そして、心臓を奪われミイラと化したシャルルを、パーシーはここで守り続けていたのだった。
「ガセット一族に心臓を奪われたミイラは、心臓を取り戻せば生き返るらしいんだ。」
パーシーの言葉には、ある決意が滲んでいた。
いつかガセット婆さんから、シャルルの心臓を取り返すつもりでいるのだ。
「でも、シャルルさんの心臓を奪ったのに、なんであんな婆さんなの。若返ったのなら、もっと若いはずじゃない?」
愛里須は疑問を口にした。
「それは、僕にもわからない。とにかく、ガセット婆さんから心臓を取り戻さなきゃならないんだ。」
そのために、愛里須に力になって欲しいと言うと、パーシーは一つの鍵を差し出した。
なんの鍵かはわからないが、何故かガセット婆さんが恐れているものらしい。パーシーは以前、空き缶代をくすねて、ガセット婆さんが大切に保管している鍵の合鍵を作り、いつかガセット婆さんと対決する日のために持ち歩いていたのだ。
「僕は婆さんの魔法の力で逆らうことができないんだ。いざという時には、君にこの鍵を使ってほしい。」
なんとなく力強そうな雰囲気の鍵を受け取ると、愛里須はいつの日かガセット婆さんと対決するときがくることを想像して嬉しさを感じるのだった。
「ガセット婆さんを倒したら、元の世界に戻る方法を教えてくれる?」
愛里須は最も重要なことを確認した。
「もちろんさ。但し、その前にシャルルの心臓を取り戻したらだけど。僕の魔法は婆さんが死ねば解けるけど、シャルルの心臓は婆さんを生かした状態でないと取り戻せないんだ。」
これはまた厄介なことになってきた。
愛里須は、空き缶を潰しながら、ガセット婆さんの頭蓋骨を潰す空想をしては、鬱憤をはらしていた。
ただ、一発で空き缶を潰せばスッキリするのだが、ハンマーが中心をそれて缶があらぬ方向に飛んでいくと余計ストレスが溜まるのではあったが。
そんな空き缶潰しをしつつ、この鍵を使っていかにシャルルの心臓を取り戻すか、策略を練り始めるのだった。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「LOUDNESS」 LOUDNESS
ファンタジー・メタル(そんなカテゴリーないけど)にとって暗黒時代の1990年代。
ラウドネスも、モダン・ヘヴィー路線へ。
当時、山田雅樹氏、沢田泰司氏加入で期待が大きかったものの、予想と違う内容にかなり戸惑ったものでした。ただ、リユニオン・ラウドネスに慣れた昨今、あらためてじっくり聴いてみると、すごくいいアルバムです。
かつては、このアルバムをラウドネスにとってのベストと評する意見を聞くと不思議に思ったものですが、なるほどそうかもしれない。とも思えるのでした。
尤も、自分にとってのラウドネス・ベストアルバムはやっぱり「HURRICANE EYES」ですが。
ちなみに、小説中に書いたミイラ化したシャルルのいる機械室は、「PRAY FOR THE DEAD」を聴きながらイメージしました。


<余談>
インパルス堤下敦氏は、もう土岐田麗子さんにプロポーズしたのでしょうか。
どうでもいいけど交際後、土岐田さんが5Kgも太ったってのはちょっとまずいと思います。
美味しい物を美味しく食べるのもいいけれど、食べたらその分、運動して欲しいです。
堤下氏の場合、別に太ってなくても板倉俊之氏の頭脳をもってすれば、いくらでも笑いはとれるはず。
とにかく、デートの後には二人してピラテスをやるべきです。
そして、幸せな家庭を築きましょう。
堤下氏に一言。
男なら、やっぱり基本はスクワット。

成海頁二:「い・・・・いったい 何回やるんですか・・・・」
桜五郎: 「ん  8千回でいいよ きょうは」

いくらなんでも、8千回は無理だと思うけど。
まずは、1日100回から。


<余談 その2>
ちなみにこの小説は、インパルスの影響を大いに受けてます。
ヨハン・リーベルトのコント、また見てみたい。
「チクッといきますよ。」


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/05/12

LOUDNESS 136

   Alice’s Adventures in Akabane   part.2
青いビニール・シートの小屋を覗き込んでいた愛里須は、突然背後から声をかけられて飛び上がるほど驚くのだった。振り向いた愛里須の前には、乳母車を押したヨボヨボのお婆さんが座っていた。いや、よく見ると立っていたのだが、ものすごく小さいので座っているように見えただけだった。
愛里須は、ひとつ深呼吸をすると持ち前の機転を利かせ、ここは本当のことを言ったほうがよさそうだと判断した。おそらく信じてもらえないだろうが、相手がこんな婆さんなら恐れることもないだろう。
「赤羽駅で立って歩く大きなドブネズミに会ったの。そのドブネズミを追いかけてきたら、この小屋の中に入って行ったの。」
お婆さんは、その話しを聞くと一瞬鋭い目つきをした。あたかも目が光ったように見えた。しかし、すぐに元の顔つきに戻ると、別に驚いた様子もなく普通に返事をするのだった。
「小屋だと。失礼なこと言うんじゃないよ。このクソガキが。これは水上コテージだよ。でも、あんた、パーシーの友達なのかい。それなら、まあ今回の失言は見逃してやろうかね。」
そう言うとお婆さんは愛里須を小屋の中に招き入れた。愛里須は小屋に入ったものかどうか、少し躊躇したものの、他に行動の選択肢も無いわけだし、仕方が無いのでお婆さんに続いて入っていった。
小屋の中は3畳ほどの広さだろうか。意外にもきれいに片付いていた。壁際の棚には調味料や鍋がきれいに並べられ、その横には龍の置物が何故か鎖に巻かれて置いてあった。さらに、床にはなんと畳まで敷かれていた。
「どうだい、なかなかいい水上コテージじゃろ。もともと釣り人用の台が二つあったものの間に板を渡して部屋にしたんじゃよ。こんな所に釣りに来る奴なんかおらんからな。」
お婆さんは得意げに話し始めた。しかし、愛里須はそんなことより、お婆さんが「パーシー」と言っていたあのドブネズミのことが気になっていた。どうも話の様子からして、お婆さんのペットか何かのようだし、ドブネズミと呼ぶのはまずいような気がした。
「あの、パーシーはどこに居るんですか。」
愛里須は恐る恐る話を振ってみた。
「そんなことより、他人の家に招待されたらまず名乗るのが礼儀じゃろう。まったく最近のガキときたらなってないんじゃから。」
愛里須はあわてて名乗ると、お婆さんは機嫌を直したようで、また延々とおしゃべりを始めた。
お婆さんは名前をガセットといい、この水上コテージに住むようになってもう、20年以上経つらしい。もともとは大手建設会社の重役を務めていたらしいのだがバブル崩壊とともに会社は衰退、その責任をとって辞任したらしい。
その後はあれよあれよという間に転落の人生を送り、借金取りに追われる生活をした末に行き着いたのがこの川岸なのだそうだ。
ひとしきり話をするとガセット婆さんはおもむろに立ち上がり、水上コテージの入り口とは別の扉(扉といっても、シートに切れ目があって通れるようになっているだけだが。)をくぐって出て行ってしまった。一人部屋に取り残された愛里須は、しばらくすると急に不安を感じガセット婆さんの消えた扉の前に行き、中の気配を窺うと意を決してシートの隙間を開き、中を覗いてみた。すると、
「このクソガキャー、なにトイレ覗き見するんじゃー。」
なんと、ここはトイレだったのだ。この水上コテージには、なんとトイレまであったのか。
「ご免なさい。」
愛里須は慌てて謝りながらシートを元に戻すと、再び床に座りながらブツブツと呟いた。
「トイレに行くなら行くで、そう言ってくれればいいのに。こっちは初めて来る場所で戸惑ってるんだから。」

暫くしてトイレから出てきたガセット婆さんは脱兎のごとく愛里須に一蹴り入れると、仰向けに倒れこんだ愛里須に馬乗りになり思いっきり殴りかかってきた。
「ご免なさい。許してください。」
あまりの迫力に愛里須はただ殴られるに任せるしかなかった。一頻り愛里須を殴ると、疲れたのかガセット婆さんは横になるのだった。
「もう二度とあんな真似するんじゃないよ。」
言われなくたって、誰が人の入ってるトイレなんか覗くもんか。愛里須はそう思ったけれど、当然そんなことは言わずに謝りつづけるのだった。
「あんたもトイレ行っといで。」
ようやく気持ちも収まったのか、ガセット婆さんは横になったままそう声をかけてきた。ボコボコに顔を腫らした愛里須は、トイレに入ると声を殺しつつ思いっきり泣いた。
「やっぱりトイレで泣くと気持ちが落ち着くわ。」
暫くすると愛里須は本当に落ち着いてきた。落ち着いて回りを見回す余裕ができると、ふと気が付くのだった。
「紙がない。」
どうしよう。再び心臓がドキドキ鳴り出した。ガセット婆さんにトイレットペーパーを頼むわけにもいかないし、だいたい、ここにトイレットペーパーなどとてもありそうになかった。そういえば、大事なポシェットはどこにいったんだろう。愛里須は大変なことに気が付いた。ティッシュどころか、財布や携帯電話など、すべて入ったポシェットをなくしてしまったようだ。そういえば、下水管に落下したとき、すでに無かったような気もする。
今日の自分はなんて運がないのだろう。今日の占いを見たら、きっとあまりの運のなさに占い師もびっくりするだろう。そんなことを考えていると、突然お尻に湿ったものが触れるのを感じた。
ここのトイレは、床に穴が開いていて、そこから川に直接排泄するのだが、なんとその川から一匹の魚が顔を出し、舌で愛里須のお尻を舐めているのだった。
「ギャー。」
あまりのことにびっくりした愛里須は、下半身丸出しでトイレを飛び出した。そこには、ガセット婆さんと、そしてあのドブネズミ、パーシーが居た。
「おやおや、丸出しではしたないこと。まったく最近のクソガキときたら、よくそんな格好で人前に出られるもんだ。」
そこまで言ってからガセット婆さんはふと気がついたようだった。
「ああ、シーラ二世のことを紹介してなかったね。そいつは大丈夫。あたしのお尻を拭いてくれる召使だからね。」
なんと、ガセット婆さんはトイレットペーパーの代わりに調教したシーラカンスを飼っていたのだった。シーラカンスは、その柔らかい舌でお尻を穴をまわりまで舐めてきれいにしてくれるそうだった。
なんでも、最初、調教したシーラカンスは物覚えが悪く、何度もガセット婆さんに噛み付いたそうで、頭にきたガセット婆さんは焼いて食べてしまったそうだ。今いるのは、その子供でこちらは物覚えがよく、ガセット婆さんの要求に完璧に応えているらしい。

愛里須は、ガセット婆さんによるシーラ二世の解説を聞き終わると、ようやく会えたパーシーに話し掛けるタイミングをやっと得ることができた。
「パーシー、教えて。赤羽駅にはどうやって戻るの。」
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「Keeper Of The Seven Keys partⅡ
    ~守護神伝 第二章~」 HELLOWEEN
1980年代を代表するファンタジーといえば、初期のHELLOWEEN。
タイトルチューンの「KEEPER OF THE SEVEN KEYS」は、お約束の超大作。
Mr.Michel Kiskeの美しいヴォーカルはまさに絶品。


<余談>
むかーしむかし、あるところにラウドネスというヘヴィーメタルバンドが居ったそうな。
ある日、
タッカンはソロアルバムのレコーディングを、
ニイチャンはXYZ→Aの活動を、
ひぐっつぁんはドラム・トレーニングを、
そして、マークンは海釣りに行っていたそうな。
海では波間に大きな桃がドンブラコー、ドンブラコーと漂っていたそうな。
                          <つづきません・・・たぶん>


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/05/05

LOUDNESS 135

               衝撃の出会い
          21cm×29cmの小さな画面
            その中で演じられる笑劇
           「血塗られた天使の棲む街」
            すべてはここから始まった

   Alice’s Adventures in Akabane   part.1
雨はさらに激しさを増し、まだ午後3時だというのにあたりは夜のように真っ暗だった。赤羽駅京浜東北線ホームには人影もまばらだった。タバコ嫌いの有栖川愛里須は駅で電車を待つ際、喫煙スペースと逆側の端に行くのだが、そのあたりは、いつも人が少なかった。今日は午後から大荒れになるという天気予報のためか、外出する人自体僅かだったようで、あたりにはまったく人がいなかった。
真っ黒な雲と激しい雨。さらに嵐のように風が吹き付けるので、ホームの屋根の下にいても雨に打たれてしまいそうだった。愛里須は雨を避けるようにホームの風下よりに移動せざるを得なかった。そこは、ホームの端でもう少しで線路に落っこちてしまうのではないかと思えるほどだった。
「ここに電車が入ってきたら危ないな。」
そんなことを思いながら線路を眺めていると、奥にある側溝の蓋の隙間から灰色の物体が動くのが見えていた。その灰色の物体はしばらくモゴモゴ動いていたかと思うと、急に愛里須のほうに振り向いた。そう。物体に見えていたのは太ったドブネズミだった。黒いつぶらな瞳でしばらく愛里須を眺めていたドブネズミは、素早い動きで側溝の蓋の隙間に消えていった。この駅では時々ネズミに出会うけれど、こんなに大きいネズミは初めてだ。
しかし、身体が大きなわりには側溝の蓋にあるごく狭い隙間に入り込むのだから、やはりネズミはすごい。そんなことを考えながらぼんやりしていた愛里須の視線の端に、今度はさらに大きな灰色の物体が感じられた。
その物体の雰囲気を感じ、首を巡らせた愛里須は信じられない光景を目にするのだった。
大きな灰色の物体は、さっきのドブネズミだった。しかも、奴は2本足で立った状態で愛里須のほうに歩いてくるのだった。呆然としながら立ち尽くす愛里須を無視するかのごとく、ドブネズミ氏は愛里須の脇を通り過ぎると、そのまま駅舎の方へ歩いていくのだった。
「なんで服を着てないんだろう。懐中時計はどうしたの?」
愛里須の混乱した頭は変な事を考えると、その考えでさらに混沌としていくのだった。そんな愛里須を置き去りにして、かのドブネズミ氏は駅舎の横で煙をかき消すかのように姿をくらましてしまった。
「追いかけなければ。」
愛里須は変な衝動にかられると、ドブネズミの消えた駅舎の横に向かって走っていた。

ドブネズミの消えた駅舎の壁にはほんの小さな穴が開いていた。この穴に入ったのだろうか。愛里須はその小さな穴に目を近づけると中を覗き込んだみた。そこは、真っ暗な空間なのだけれど、何故か夜空のように多数の星が瞬いていた。もっと何かが見えないだろうか。愛里須はさらに穴に顔をこすりつけるようにしたその時、突然、愛里須の前から壁が忽然と消えてしまった。
「あっ。」
と思った時には、愛里須の体は真っ暗な宇宙空間に放り出されていた。
振り向くと、あの小さな穴が星空の中の星の一つのように見えていた。しかし、愛里須の体は勢いがついて、どんどんあの穴から離れていった。このまま宇宙空間を漂ってしまったらどうなってしまうのだろう。愛里須はあまりに突拍子も無い出来事に頭がついていくことができず、自分の入ってきた小さな穴が見えなくなっても不思議と恐怖を感じることはなかった。
ただ、この宇宙空間が一体どこまで続くのだろうと思うだけだった。
しかも、真っ暗な空間に抱かれているとだんだんと心地良い気持ちにすらなってきて、大きなあくびをひとつすると、なんと眠りにはいってしまうのだった。まるで夢を見ているような状況下で見る夢。真っ暗な空間に放り出されたのに、夢の中ではなんとなく下に落下しているような感覚があった。
そう、夢の中でもやっぱり宇宙空間のようなところを落っこちて行っているのだった。
その時だった。夢の中で、なにかヌメッとしたものが愛里須の身体を後ろから支えるような感覚があった。おそらくあのドブネズミ氏だろうと感じたので、振り向いて目があったりしたら嫌だと思い愛里須はなすがままに任せていた。ドブネズミ氏がコントロールしているのか、落下の速度が少し遅くなっているようだった。と、その瞬間、愛里須の脳裏に閃光が走ったかと思うと、大きな水しぶきをあげて水たまりに落下していた。

二重の夢から一気に覚めた愛里須は呆然とあたりを見回した。ここは一体何処なのだろう。
なんかドブ泥臭く、しかも真っ暗なこの場所は下水管の中のようだった。
しばらくして少し気分が落ち着いてくると、右肩に痛みを感じだした。ドブネズミ氏が減速してくれたとはいえ、かなりの速度で肩から落下したようだった。そうだ、あのドブネズミはどこへ行ったのだろう。今では、唯一頼れるのがあのドブネズミ氏なのだった。
あたりを見回すと、遠くにかすかな光が見えるのだった。愛里須はずぶ濡れの痛む身体を重そうに動かすと、明かりの見える方に歩き出した。

かなり長く感じられたトンネルを抜け出すと、そこは土手にあいた下水管の出口のようだった。
目の前には草薮が生い茂り、その先にはキラキラと輝く川面が目にはいった。ずっと暗がりにいた愛里須は眩しさに目を細めながら、ドブネズミの姿を捜したが見つけることはできなかった。仕方が無いので、とりあえず川岸まで行ってみることにした。藪を掻き分けて川岸と思われる方向に進んで行くと、しばらくして突然目の前が開け、再び川面の輝きが愛里須の視界を奪うのだった。しかし、視界を奪われる前のほんの一瞬、愛里須はあのドブネズミ氏が川岸の青いシートの中に入っていくのを確認していた。
目が明るさに慣れてくると、愛里須は青いシートの小屋に近づいていき、恐る恐る中を窺った。
愛里須は何不自由なく育ったので、こんな小屋に近づいたのは初めてだった。
小屋の入口と思われるシートの隙間から中を覗き込もうとしていると、突然、後ろから声をかけられた。
「わしの水上コテージに何の用じゃ。」
愛里須は心臓が止まるかと思うほどびっくりした。
                                   <つづく>


<きょうのBGM>
「Rainbow Rising~虹を翔る覇者~」 Rainbow
1970年代を代表するファンタジーといえば、初期のRainbow。Mr.Ronnie James Dioらしさが全編に漲る大作。いかにもヨーロッパでウケそうなファンタジーの世界。パーティー・ロック好きのアメリカでは残念ながら売れなかったらしい。どちらも受け入れられる日本人でよかった。
「STARGAZER」は、何度聴いてもやっぱりすごい。
ジャケットデザインもまさにアートしてます。


<余談>
我らがLOUDNESS出演の[渋谷ジャック]まであと3週間。お年寄り向きのイベントではなさそうなので、今回は若者たちに任せた。夜は苦手でねー。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/07/22

LOUDNESS 87

「ラウドネスの彼方へ」   第九話

JR埼京線と武蔵野線が交差する武蔵浦和駅。
その武蔵浦和から流れ出ている中央排水路はそのまま笹目川となり荒川へと続くのだった。

初冬とは思えぬポカポカ陽気に誘われて、紀子は久しぶりに武雄の散歩につきあって笹目川に来ていた。前にふたりで散歩してから、もう半年近く経っていた。あれから、なんかいろんなことが起こったような気がする。紀子は、この笹目川で春子からメールを受けてからのゴタゴタをぼんやりと思いおこしていた。

結局、舞はその後、なにごともなかったかのように旦那とフツーの暮らしをしている。そして、春子はあいかわらず、次の戦争に備えているようだった。ただ、舞と春子が妙に仲良くなったのがちょっと不気味だと紀子は思っていた。
でも、こうやってまた、武雄とふたりで散歩できるのだから幸せだ。
そんなことを考えながら歩いていると突然、笹目川の側壁から水が音をたてて流れ出した。前に散歩したとき、武雄が見たがっていた、荒川からひいた水の放流だ。

「武雄、あれ。見て見て。」思わず紀子は嬌声をあげた。

(We are the Loudness Feel in the sky)
そのとき、武雄は微かに呟くように歌っていた。
(そうか、武雄も行ってたんだ。ラウドネスの彼方に。わたしがバッフクランの母星へ旅立つように。)

「へ。何。・・・・・あっ、あれ。だいぶ前から放流は始まってるよ。」
ようやく意識がご帰還あそばしたようで、武雄が素っ頓狂な声で返事をした。
(そうか、武雄はしょっちゅう笹目川に来てるから、別に珍しくないんだ。)
また、置いてきぼりを喰らった紀子だった。

「ねえ、何食べに行く。」
武雄には武雄の世界があり、紀子には紀子の世界がある。舞の事件を傍で見てから、紀子はその辺の考え方がかなり割り切れるようになった自分を感じていた。
「パスタか回転寿司がいいな。」
(武雄は本当にパスタ好きだ。)
そんな事を思いつつ、紀子は武蔵浦和周辺の店を頭の中で検索し始めた。紀子が食べ物の世界に没頭し始めると、武雄は再び旅立って行った。ラウドネスの彼方へ。

We are the Loudness We feel high high high...

<<おしまい>>

*----------*----------*----------*

<きょうの一言>
あー、終わったーぃ。


<きょうのBGM>
「8186 LIVE」 LOUDNESS
1981年のデビューから1986年までの活動を総括する5周年記念ライブ。
今思うとこの5年間というのは、なんと密度の濃い5年間だったのだろう。
その5年分の名曲がぎっしり詰まっているライブの決定盤。
ただ、オープニングの「Eruption」がカットされているのがかえすがえすも残念。
25周年記念で、「Eruption」収録版を制作してくれないかなー。

■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/07/15

LOUDNESS 86

「ラウドネスの彼方へ」   第八話

紀子は混乱していた。
いきなり「殺した」などとメールされても困ってしまう。だいたい舞は、いつも相手のことを考えずにメールをよこすからイヤなんだ。旦那を殺したなんて内容のメールは、もうちょっとこっちの状況も考慮して送るべきだろう。
って、こっちがどんな状況だったら送っていいわけ。
自分で自分に突っ込みいれててもしょうがない。
こんな時は、武雄に相談して...
でも、昨夜、武雄の首を絞めようとしたなんてことは、絶対、悟られてはいけないし...
どうしよう。
ますます混乱は深まるばかりだった。

「どうしたの。」
さすがに能天気な武雄も、紀子の異変に気づいたらしい。
紀子は意を決すると、舞からのメールを武雄の眼前に突きつけた。

「.....」しばらくの沈黙後、「電話してみたら。」
武雄の答えは相変わらず簡潔。「何故?」とか、「なにがあったの?」とか、面倒臭い経過説明を省いてくれるから助かる。

舞の携帯に電話してみる。緊張の一瞬。呼び出し音が鳴らない。だめか.....
携帯の向こうから、相変わらず無機質な声が喋り始めた。
「おかけになった番号は、ただいま電波の届かないところか.....」

やっぱりだめか。
「自宅にかけてみればいいじゃん。」
さすが、お気楽男の考えることは鮮やかだ。
携帯にでない舞が自宅の電話にでるわけないし、自宅にいるであろう舞の旦那は、電話にでられる状態にないだろうし。だって、殺されちゃったんだから。

しかし、他に案もないのでお気楽男案に従うことにした。
{トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル.....}
永遠に続くであろう電話の呼び出し音が鳴っている。やっぱり舞の旦那は電話にでられないのだろう。
と、思ったとき。「モシモシ。」
一瞬、紀子の心臓が凍りついた。そして、止まったかと思われた紀子の心臓は、次の瞬間、怒涛のように動き出し、その鼓動は3Km先まで伝わるのではないかと思えるほど激しかった。
「あ。あの、杉浦さんのお宅でしょうか。舞さんいらっしゃいますでしょうか。」
電話にでたのは男の声だった。旦那の声は覚えていないけれど、旦那のはずはないし、もしかして警察.....
再び紀子の頭は大混乱していた。
「舞なら今朝から行方不明ですけど。どちらさん?」
そういえば気が動転して、名乗ることすら忘れていた。自分の名前を言うことで、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった紀子は、何故か生きている舞の旦那から、今わかる範囲の情報を収集した。もちろん、こちらの情報は一切出すことなく。
「春子だったら何かわかるかもしれないので、連絡してみます。」こちらの手の内を見せることなく話を終わらせられそうだったので、紀子はちょっと優位性を感じ始めていた。
「すいません。お手数おかけして。お願いします。」最初はぶっきらぼうだった舞の旦那も、だんだん穏やかな口調になっていた。そして、紀子が自分の携帯番号を教えようとすると、舞の旦那は、「あ、わかります。表示されてるから。」と言った。ちょっと優位に立っていると思っていたのに、また負けた。紀子は、家の柱に懸かっている黒い電話機を見ると、そう思った。

「武雄、番号表示の出る電話買おうよ。今時、いないよ。こんな事務用電話使ってる家。」
武雄がなにか反論しようと試みた時、紀子の携帯が鳴った。

「ほんと、あのバカには振り回されるわよ。」
舞の「旦那殺しちゃった事件」から、もう一週間経っていた。
なんか、この一週間、毎日、春子と同じ話しをしているようだった。もちろん、話の肴は、舞。
結局、紀子が動転してもたもたしている間に、紀子が舞から送られたメールと同じ内容のメールを受け取った春子が、疾風の如く行動し、舞を確保していたのだった。ただ春子も、舞の旦那が生きていることは知らなかったらしく、紀子から舞の旦那とのやり取りを聞いて、ほっとしたということだった。
「だいたい、5分も旦那の首を絞めて殺せないってのは、握力何キロあんのよねー。」
春子のこのセリフ。もう何回聞いただろう。
「やまとなでしこは普段、お淑やかでも、やるときゃやる。ちゃんと、握力も鍛えとかなきゃ。こんなことじゃ、次の戦争は勝てっこないわよ。」
本当に最近の女子は腕立て伏せが1回もできなかったりするそうだ。次の戦争はともかく、確かにある程度の体力は必要だろう。紀子は、そう思いながらも黙っていた。やっぱり、春子の意見に賛同の意思を示すと、碌な事が起こらないと思えるから。演説はまだまだ続きそうだ。紀子は、バッフクランの母星へ旅立って行った。

<<つづく>>

*----------*----------*----------*


<余談>
Jオールスターゲーム。
手に汗握るゲームもいいけど、気楽に見られるゲームってのもいいもんです。
でも、
MVP:中澤佑ニ選手      MIP:巻誠一郎選手
ってのは、どうなんでしょう。
個人的感想を言えば、
MVP:小笠原満男選手    MIP:中澤佑ニ選手
だと思うんだけど。
巻誠一郎選手が評価されるのは嬉しいんだけど、マスコミが煽るだけってのは、ちょっと、ナンダカナーって感じます。

<きょうのBGM>
「SOLDIER OF FORTUNE」  LOUDNESS
曲よし、演奏よし、メロディーよし。特にタッカンのタッピングは頂点を極めてます。
LOUDNESSのアルバムの中では、最もキャッチャーな曲調で統一されているので、万人向けのアルバムといえます。
私としては、LOUDNESS=ニイチャンのイメージが強いので、Mr.Mike Vesceraのように本物っぽく歌われてしまうと、ちょっとフツーのバンドになっちゃったかな、という感じもしますが。
その分、タッカンが和風フレーズで「日本」を強調しているように見うけられます。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/07/08

LOUDNESS 85

「ラウドネスの彼方へ」   第七話

「ウフッ。ウフフッ。」
寝顔のまま突然笑う武雄にびっくりして、紀子は思わず武雄の首から手を離した。
本当に幸せいっぱいの寝顔をしている。どうせこいつのことだから、プラモデルのコンテストで入選した夢でも見ているのだろう。こんなお気楽男を殺して一生を棒にふるなんて。
「馬鹿馬鹿しい。」
紀子は、そう思うと「おやすみ。」と呟き、眠りに入っていった。

紀子が目を覚ましたとき、すでに朝日が差し込んでいた。もう朝なのだろうか、昨日はぐっすりとよく眠れたようだ。ふと隣を見ると、武雄の姿が見えない。一瞬、自分が昨晩していたことを思い出し心が凍りついた。武雄がいなくなってしまった。武雄がいなくなっただけで、こんなにも狼狽している自分を不思議に思いつつも、紀子は最近の武雄になにか変わったことがなかったか、必死で記憶を遡っていった。なにも思い出せない自分に少し腹をたてながら。

その時、突然ベランダの窓が開くと眩しい朝日が紀子の網膜に突き刺さってきた。次の瞬間、黄金色の朝日の中から現れる武雄の姿を確認した紀子は、ほっと安堵のため息を漏らすのだった。あまりに動揺したためか、普段のような罵倒のセリフも急には出てこなかった。しかし、3秒ほどの間をあけることで心の体制を立て直すと、ようやくいつもの紀子に戻ることができた。
「なにしてたのよ。びっくりするじゃない。」
ちょっと声が震えているのを悟られまいと、いつもよりきつい言い方になってしまった。
「あ。そう。」
相変わらずのお気楽モード。なんか、さっきまでの殺伐とした空気がうそのように、部屋の中の空気が、のんべんだらりと弛緩していくのを感じ、同時に紀子の身体からも力が抜けていくようだった。

「ブタのガブガブが畑から野菜をとってくるのが好きな気持ちがわかるような気がしたよ。」
またわけのわからないことを言いながら、武雄は両手のトマトを紀子に見せるのだった。真っ赤に熟したトマトは、確かに美味しそうだ。なんのことはない、武雄はプランターに植えてあるトマトをとりにベランダに出ていただけだったのだ。
「だいたい今、何時なのよ。」安心しきった紀子はそう言いながら時計を見た。5時・・・・半。(お前は年寄りか。)
「まだ5時半じゃない。」紀子は再び布団をかぶると眠りに入っていった。

変な時間に起こされて二度寝したため、ちょっと遅めの朝食をとりながら紀子はいつものようにとりとめのない話をしていた。すると、しばらくして例のトマトを食べながら武雄が珍しく話しはじめた。
「昨日、面白い夢みてさ。久しぶりに奥さんも出てきたよ。」
武雄の見る夢は、よく同じ場所が登場するらしい。どこか、南の島らしく、どの島なのか特定はできないのだが一応、頭の中で地図は書けるそうだ。その島に、紀子と一緒に行った夢を見たというのだ。
それでは昨晩、武雄の首を絞めようとしていたときに嬉しそうな顔をしていたのは、紀子と一緒だったからなのだろうか。

(そうか。そうだったんだ。いや、そうに決まってる。)
紀子は、真っ赤なトマトを食べながら、幸せな日常の中にいる自分を感じていた。
きっと、これは幸せなことなんだろう。

{ティラリラリーン}
また紀子の携帯にメールがはいった。こんな朝っぱらから誰だろう。といっても、もう昼近いけど。
紀子の携帯は舞からのメールを表示していた。幸せな紀子に、悪魔からのメールが来ていた。
「あの人を殺しちゃった」

<<つづく>>

*----------*----------*----------*


<久々、きょうの本題>
  ~ ってことは、ここまで前フリだったのかー ~
2006年9月17日(日) 渋谷O-EAST
 PURE ROCK JAPAN LIVE 2006
詳しくはオフィシャルホームページにて、ご確認下さい。


<余談>
昨晩からココログ管理画面が開けない。やっと開くことができ書き込みも終わりアップロードしようとしたら、全く動かない画面。エラーになったら書き直し。下書き保存は途中までしかしてないし。手に汗握って画面を見つめてました。なんとか更新終了。ホッ

<きょうのBGM>
「THE BEST OF REUNION」  LOUDNESS
そのまんま、リユニオン・ラウドネスのベスト盤。
ベスト盤なだけあって、聴きやすい曲で構成されてます。
新曲「JACK」もいい出来です。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/07/01

LOUDNESS 84

「ラウドネスの彼方へ」   第六話

武雄は安らかに眠っている。あまりにも安らかな寝顔なので、死んでいるのではないかと思うほどだった。その寝顔を見ながら、紀子は武雄の首を絞めるべく手をかけた。

「男なんてみんなクズみたいなもんよ。」相変わらず春子は口から猛毒を吐き続ける。
きょうは、春子、舞のふたりと会っていた。春子と舞、久々の邂逅。あの日から、もう6ヶ月も経っていた。あの日、あれだけ叩きのめされたにもかかわらず、やっぱり誘われるとのこのこ出てくる舞。そして、あれだけ舞を罵りまくったにもかかわらず、平然と舞を誘う春子。
このふたりは、やっぱり持ちつ持たれつなんだと紀子は思うのだった。

きょうの春子の標的は、ここにいない春子の旦那。そして、旦那に不満を抱える舞が、珍しく同調するという展開。いつもは頷くだけの舞がなんと喋ってる。その舞の喋くりが春子の意見を後押しして、春子は天井知らずに増長しまくっていた。
きょうは、フローラン・ダバディさんにならなくていいみたい。前回、通訳に徹していた紀子は、ふたりのやりとりを眺めながら、ぼんやりと意識を遊離させた。旦那の悪口合戦だったら口を挟む必要もないし、だいたいふたりの悪口のレベルが高すぎて、とてもついていけなかった。

「殺しちゃおうよ。3人でみんな。」舞があまりにも荒唐無稽の話をしているのをおぼろげに聞き流す。
「でも紀子の旦那なんか、毒盛ったって死なないよ。」あまりに黙っているので、春子が突っ込みを入れてきた。

毒盛っても死なないとは失礼な。と思いはしたけど、確かに武雄は変わってるから、もしかしたら平気かもしれない。そういえば昔、腐りかけた肉を食べて胃腸を鍛えているとか言っていた。ちょっと粘りのでた肉も、粘りを水で洗って料理すれば食べられるって。ほかにも、公園の水道水とか平気で飲むし。でも以前、海の水道で白濁した水を飲んだときは、ちょっと気持ち悪かったとか言っていた。普通はサーフボードとか洗うのに使う水道だったらしいけど。

「紀子もやるわよね。」突然、舞の同意を求めるセリフに呼び戻された。
春子の一方的な演説と違い、舞のセリフはバッフクランの母星から帰還するタイミングがつかみずらく、なんの準備もなく一気に戻ってきた紀子は混乱してしまった。
「そうね。」思わずわけもわからず曖昧に頷いた。
なんか、ふたりして、やたら盛り上がっていたから、「やる。」っていうのは、「殺る。」ってこと?
通常、誰もついてきたことのない春子の演説に、始めてついてきたのが舞だったもんだから、ブレーキの壊れたダンプカーの如く、行き着くところまで行き着いたって感じ?
このふたり。ホントに恐い。

武雄の寝顔を見ながら、紀子の頭には昨日の舞のセリフがこびりついていた。

<<つづく>>

*----------*----------*----------*

<きょうのBGM>
「Racing ~音速~ English version」  LOUDNESS
リユニオン・ラウドネスの最高傑作。
ひたすら生真面目にアルバム創ったら、こんなん出来ました。といった感じ。
ひたすら生真面目に聴きこめば、おのずと見えてきます。LOUDNESSの凄さが。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/06/24

LOUDNESS 83

「ラウドネスの彼方へ」   第五話

{ティラリラリーン}
またメールがきた。
また舞からだった。
最近、舞からのメールがやたら多い。ほとんど毎日のように来る。以前は、2ヶ月に一回来るか来ないか程度だったのに。なんか、旦那とうまくいってないらしい。舞は他に相談する人いないのだろうか?まあ、いないだろうけど。でも、旦那との諍い事を相談されても困るんだ。なんてったって、うちは問題ないから。
グチを聞くだけならいいけど、相談に対して解決策を授けるなんて、絶対に無理。
あまりにしつこいから、
[うちはうまくいってるよー(^_^)]
と返信してやった。
そうしたらなんと、[武雄さんと一緒に会おうよ。]だと。
売りメールに買いメールで[OK]と返信。
というわけで、紀子は武雄を伴って舞と食事に来ている。
もちろん、きょうは舞に払わせるので、ちょっと高級なお店をチョイスしてある。
しかし、こんな会合にのこのこついて来る武雄は相変わらずお気楽モードだ。

「舞が旦那のことで相談あるらしいから一緒にきて。」紀子の命令に「いいよ。」とまたまたあっさり返事をした武雄だった。
しかし、その後ポツリと「あの人カワイイんだよね。」と呟くのを聞き逃さないデビルイヤーの紀子ではあった。

「紀子はいいよね。やさしい旦那さんで。」会うなり舞は言った。
ちょっと顔が赤らむ武雄を見ながら、(こいつ、露骨に嬉しそうな顔しやがる。)と思う紀子なのだが、武雄はそんな紀子にお構いなしにおべんちゃらを言い放った。
「杉浦さんの旦那さんこそ羨ましいですよ。こんな素敵な奥さんで。」

紀子は急に意識をはるか彼方、バッフクランの母星に跳ばした。
(やってらんないや。)
その後、何故か意気投合したようにうわべの会話を続ける舞と武雄を、はるか彼方から眺めるともなく眺めているうちに、紀子の眉間にキラリと稲妻が走った。
(面白そう。)
自分の考えに1人ニヤツクと、紀子は意識を一気に呼び戻し席を立った。
「なんかつまんないから帰るね。バイバイ。」

「あっ、そう。」
ちょっとびっくりした顔の舞と対照的に武雄は平然としていた。

怒ったようなふりをして店をでた紀子は暫くどうしようか思いあぐねた末、大好きな雑貨屋巡りをすることにした。こうゆう事は、なかなか1人じゃないと出来ないから。春子は雑貨屋なんて柄じゃないし、舞ならついて来るだろうけど、それこそついて来るだけで全く興味を示さないし、さらに武雄ときたら、途中で疲れて座り込む始末だし。
きょうは、舞に2,3時間つきあう予定だったから、雑貨屋巡りをするには丁度いい按配だ。

雑貨屋巡りをすませた紀子は、きょうの戦利品、白いかわいい食器と金網の小さい籠を抱えて上機嫌で帰ってきた。
家に着くと、既に武雄は帰っていた。
「早かったね。」と武雄。
(早かったのはそっちだろう。)と思い、その後の顛末を問いただす紀子。
あの後、暫くして武雄は帰ったのだそうだ。舞はまだ相談したかった様子だったという武雄。
「なんて言って帰ってきたの。まさか、あたしに怒られるとか言ったんじゃないでしょうね。」
さらに問い詰める紀子に対して、武雄は平然と言った。
「プラモデル作んなきゃいけないからさ。」

(お前はアホか。純真乙女の相談に対してプラモデルだと。)
紀子は、武雄の膝裏にローキックを叩き込むと間髪いれず、ボディーにパンチを見舞った。
「ボッ、ウゴッ。」
わけのわからない呻き声をあげながら、武雄はさらに言い訳を言った。
「だって、コンテストの締切が近いからさ。平静を保ってるように見えて、内心凄く焦ってるんだから。」
このお気楽男の相手をしていても、時間の無駄だ。
かわいそうな舞。プラモデルに負けるなんて。

そういえば、結局、きょうは途中で帰ったから折角の食事をちゃんととらなかったことを思い出した紀子は武雄に言うのだった。
「武雄のせいで、料理最後まで食べられなかったじゃない。」
武雄はどこが自分のせいなのかわからなかったが、一応、紀子を食事に誘ってみた。
もちろん紀子に異議はない。
「でもいいの?プラモデル。締切近いんでしょ。」当然、構わないという返事がくることを前提に訊ねるふりをする紀子に対し、それこそあたりまえに答える武雄。
「大丈夫だよ。スケジュール調整できるから。」
(舞に勝ったプラモデル。プラモデルに勝った私。やっぱり、舞より私の勝ち。)

これが夫婦ってもん。

<<つづく>>

*----------*----------*----------*

<きょうのBGM>
「Never Stay Here,Never Forget You -Loudness Best Tracks-」
                                 LOUDNESS
初期LOUDNESSのベスト盤。
この当時は収録曲数が少ないので、まさにベスト中のベスト。あっという間に聴き終わってしまう。
ラストを飾る「Eruption」は、ライブのオープニングに使用されていたドラマチックな曲。
できれば「Eruption」はアルバムの先頭に収録してほしかった。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006/06/17

LOUDNESS 82

「ラウドネスの彼方へ」   第四話

「春子対舞 地球最大の戦い」から一ヶ月。(とは言っても、実際は一方的に攻める春子と、一方的に攻め込まれるだけの舞ではあったけど。)紀子は武雄を伴って、紀子の実家に来ていた。きょうは父の誕生祝で家族パーティーを開くのだった。先月は久しぶりにレストランへ行ったにもかかわらず春子と舞は噛み合わず、結局2人の通訳をする羽目になった紀子は楽しい中にもやや疲労感を残す結果となってしまった。そのせいもあり、きょうこそはリラックスして食事を楽しもうと、紀子は張り切っていた。

まず、使い物にならない男共を追い出すと、母親と2人で厨房に篭ること小一時間。最近、だいぶ料理に自信を持てるようになったとはいえ、やはり母には殆どかなわなかった。特に煮物。なんで年寄りってのは、あんなに煮物が得意なんだろう。里芋も筍も、母が煮込むをすごくいい色に仕上がるし、味も芯までしみ込むのだった。同じ作り方をしているはずなのに、なぜか紀子が煮込むと白っぽくなってしまうのだ。当面、煮物対決は諦め、今回も母に前夜、作ってもらい、紀子は焼き物系でなんとか挽回を試みる。一応、先月のレストランで疲れきりながらもイメージを掴んできた「お上品ステーキ」に挑戦。お肉にふわふわ感を持たせて焼けるかどうかが勝負。いつもは父に脂っぽいものを食べないよう注意しているのだけれど、きょうだけは特別。なんたって、紀子の料理の腕がどれだけ上がったかというのがきょうの重要な議題なのだから。

悪戦苦闘の末、見た目はお上品に焼けたお肉に、ややほっとしながら、家族パーティー開幕。
お肉の焼き具合に関する審判を待つ紀子。
「上手く出来てるじゃない。」
やっぱり母親。なんだかんだ言っても、料理人の気持ちを理解できるのは同じ料理人だ。それに比べて男共ときたら、「いいんじゃない。」と武雄。「肉が上等なんだよ。」と父。
(お前らなー。)と心のなかで叫ぶ紀子。

だいたい武雄は、美味しい料理に全く興味を示さないタイプだから、つまらないこと甚だしい。以前も、「何食べたい?」と聞く紀子に対して、「蛋白質。」などとありえない返答をよこす奴だった。
(肉か魚か、はたまた納豆か。最低そのレベルで答えてみろ。普通だったら、肉だって、ステーキなのかとんかつなのか位、指定するもんだろー。)
紀子は心のなかで叫びながらも、春子だったら口に出してスッキリしてるんだろうと思ったものだ。

そんなことを思い出していたら、いきなり武雄がしゃべりだした。
「包丁はやっぱり慣れですよね。最初、こっちに来た時はうちの包丁がすごく使いづらかったけど、今では逆に実家に帰って包丁持つと恐いんですよ。なんか手を切りそうな感覚があって。」

武雄は、料理の話題に合わせたつもりだろうけれど、紀子にとっては両親が違う受け取り方をしないか心配だった。
(あ、この野郎。暗に家で料理させられてるってこと言ってやがるな。滅多に台所に立たないくせに、変なところでポイント稼ごうとするんだから。)
劣勢に立たされる危機を察知した紀子は、断腸の思いで話題を料理からそらすしかなかった。きょうの議題は次回に繰越ということにしよう。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、家路へとむかう紀子と武雄。
さっきの武雄をセリフを思い出すと、またムカムカとしはじめた紀子は、武雄の前に回り込むと「エイッ。」と掛け声もろともボディーに一発お見舞いしてやった。
「ウグッ。」
武雄のちょっとした呻き声を聞き、ようやくスッキリした紀子だった。

<<つづく>>

*----------*----------*----------*

<きょうのBGM>
「THUNDER IN THE EAST」 LOUDNESS
誰にでもお勧めしやすい1枚。
初めて聴いたときは、やや違和感を感じたけれど、今でも安心して聴けるアルバム。
アメリカ向けに音を変えられてはいるけれど、それでもギターを聴けばタッカンそのものだし、ヴォーカルもニイチャンらしさ全開。
どの曲も、まさにLOUDNESSというのが嬉しい。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006/06/10

LOUDNESS 81

「ラウドネスの彼方へ」   第三話

「待たせてソーリーって、あんたはグッバイか。」
またもや春子はわけのわからないツッコミを入れた。
「だいたいあんたは私たち2人を待たせて、いったい何様だと思ってんのよ。」
またもや春子の舞イビリが始まった。

実際には紀子も春子も待ち合わせ時間よりかなり早く来ていたので、おそらく舞は時間通りに来たのだろう。でも変に舞を援護するとかえって話しがこんがらがるので、ここは当事者の2人だけで完結してもらおう。紀子は傍観者を決め込むと、再び意識を遊離させ、遥かバッフクランの母星へ旅立って行った。

舞。
見た目は超美人。というより、カワイイ系か。10代のころは街を歩けばスカウトに声をかけられるという日々だったらしい。ただ、妙に堅物なところがあるうえ、思いっきり根暗なため、決して芸能界にあこがれるということはなかったようだ。いや、あこがれはあったのかもしれないけれど、一歩踏み出すということのできる器ではなかった。
春子は、そんな舞のルックスや、さらには名前までも気にくわないらしく、なにかと突っかかっていくのだった。ただ、なにかあると誘うのは春子のほうだったし、また、誘われればいたぶられるのに、必ずノコノコとやって来るのが舞だった。
やはり自然の摂理。いじめる者はいじめる対象を求め、いじめられる者はいじめられてもついていく。そんなバランス感覚を持つコンビが全人類の1%位いるんじゃないだろうか。そして、それを眺める99%の傍観者の1人が紀子なのだった。
「でも。」
ただ単に傍観者なだけで、それによって漁夫の利を得るわけでもないし、春子も舞もこれで幸せなのだから、何も悪い事はない。紀子は、そう自分に言い聞かせると遥か彼方から、いじめられる舞をぼんやりと眺め続けるのだった。そして、頭は別のことを考えていた。
「きょうは何食べにいくのかな。」
紀子は紀子で、この2人と一緒にいると幸せなのだった。

<<つづく>>

*----------*----------*----------*

<きょうの余談>
好事魔多し。
DSE(ドリーム・ステージ・エンタテイメント) vs フジテレビ
こんなトラブルは、新日に波及しないでほしい。

<きょうの余談 その2>
W杯ドイツ大会開幕。
しかしドイツ人って、みんなMr.Michael Schenkerみたいな顔してるんですね。
カッコいい。

<きょうの余談 その3>
W杯ドイツ大会開幕。
ハノーバーの名士、Mr.Rudolf Schenkerは、W杯関係で登場することはないのでしょうか。
実際、本国でのスコピの知名度ってのはどんなもんなんでしょうね。

<きょうの余談 その4>
W杯ドイツ大会開幕。
巻誠一郎選手フィーバーは何処へ。
焦らず、腐らず、泥臭く。
控えFW No.3としての使命をまっとうしてきて下さい。応援してます。

<きょうのBGM>
「SHADOWS OF WAR」 LOUDNESS
地味だけど、曲の良さ、演奏の凄さは圧巻。
BGMとして聴くより、何もせずじっくりと聴き込むべきでしょう。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/06/03

LOUDNESS 80

<本日のTB>
「ココロのとびら」(矢沢心さん)より、[ピーカン天気!]にTB
民間駐車監視員。初日は機器トラブルで結構てこずってたみたいです。ニュースで四苦八苦してる映像があったけど、プリンターにばっちりメーカーのロゴがあったりして。イメージダウンにならないかなー。
ところで、矢沢心さんを始めて見たのは、ドラマ「おやじぃ」。今、考えると信じられないような超豪華キャストに混ざって、ヤマンバ・メイクでカッ飛んでました。終盤、スパイの重責を担い、1回だけノーマル・メイクで登場した矢沢さんを見て.....「あっ、かわいいんだ。」

*---------*---------*---------*


「ラウドネスの彼方へ」   第二話

「ちょっと紀子。何使ってんのよ。」
突然、春子が現れた。
今日は春子と舞との3人で久しぶりに食事に行くことになっていた。なにしろ春子は全てにおいてうるさいので、遅れないように珍しく早めに家を出たら、なんと30分も前に待ち合わせ場所に到着してしまったのだ。そこで、暇つぶしに武雄とメール交換を始めたのだった。こんな時、武雄は暇つぶしに持ってこいの便利な相手だった。
そうこうしてるうちにメールに夢中になってしまい、春子の登場に全く気づかなかった。
そして春子は、また訳の解らない謎のセリフとともに登場と相成ったのだ。

「その携帯よ。なんで、そんな互換性の低い携帯使ってるの。」

成る程、そうゆうことか。紀子はすぐに春子の言わんとしている意味を理解した。同時に、またいつもの話が始まるということも察知した。案の定、春子の独演会が始まった。この独演会、始まると10分は終わらない。紀子は除々に意識を遊離させ、遥か彼方へと旅立って行った。

「だいたいそんなことで次の戦争に勝てると思ってるの。何で前の大戦でドイツが敗れたかわかる?いくら技術が優れていても互換性が低ければダメなの。みんな、そうゆう大事なことが何もわかってないのよ。」

春子の独演会は続いた。

そもそも次の戦争って、いったい何処と戦争するつもりなんだろう。一度、春子に聞いてみたいのだが、怒られそうでとても聞く勇気はなかった。だいたい春子の口撃は凄まじく、とても太刀打ちできるものではないだろうし、自分が標的にならないようにするのが一番賢明な生き方だと紀子は理解していた。

春子も自分でよく言っているのだが、とにかく考えるより先に口が動くのだ。春子によると、何かあると脊髄灰白質で瞬時に判断し、反射的に言葉が生成されそのまま口の筋肉に意思が伝わるとのことだった。脊髄灰白質で判断するというのは、バカでかい図体の割に脳の小さい恐竜のようなものだと思ったが、紀子はとてもそのようなことを口にすることはできなかった。一応、紀子はその言葉を口にすべきかどうか、脳で判断することができるのだった。

しかし春子にとっては、そんな周りの人の行動がじれったくて仕方ないらしかった。
「あんた達は、なんでも脳で考えようとするから動きが遅いのよ。もっと一瞬一瞬で刹那的に判断しなきゃ、次の戦争は勝てないわよ。」
そんな春子だけに、なかなか合わせられる人は少ないようで、「紀子だけよ。この理論を理解できるのは。」と、よく言われたものだ。喜んでいいものかどうか、はなはだ疑問ではあったが。

「紀子、わかった。」
突然、遥か彼方から紀子を現実に呼び戻すキーワードが飛び込んできた。
春子の話は必ずこのキーワードで締め括られるのだった。そのため、紀子は脳のシナップス1本だけ「紀子、わかった。」というキーワードを記憶させ、他の機能全てを遊離させることができるのだ。遊離した意識は、春子のおしゃべりを無視して遥か彼方、バッフクランの母星あたりまで彷徨うことができた。
これが春子と付き合う最善の方法だった。他人の言葉を真正面から受け止めすぎる人は大抵、自滅するものだ。
「うーん。よくわからないけど、春子ってやっぱりすごいよね。物の考え方とか、見方とか。」
話を聞いていないので、とりあえず漠然と誉めておく。これも賢明な生き方。

「ほんと、紀子だけよ。真実を理解できるのは。」
結局2人の会話はいつもと同じ展開で終わるのだった。いや、会話ではなかったけど。

「遅れてごめんなさい。」
そこにちょうどタイミングよく舞が現れた。

<<つづく>>

<きょうのBGM>
「HURRICANE EYES」 LOUDNESS
個人的な趣味では、LOUDNESS最高傑作。
とにかく、最初の3曲が最高にカッコいい。もちろん、他の曲もライブ映えする名曲揃い。
プロデューサーのMr.EDDIE KRAMERがLOUDNESSの魅力を最大限に活かしてます。


■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/05/27

LOUDNESS 79

「ラウドネスの彼方へ」   第一話

JR埼京線と武蔵野線が交差する武蔵浦和駅。
埼玉県というと大宮が中心というイメージだが、最近では武蔵浦和周辺が赤丸急上昇。大宮に比べるとまだまだ土地も空いているし計画的な都市開発を進めれば、十分埼玉県の中心になりうる地域といえそうだ。
その武蔵浦和から流れ出ている中央排水路はそのまま笹目川となり荒川へと続くのだった。
笹目川は都会を流れる他の河川同様、ダイオキシンによる汚染もあり、また流れが淀むとややドブ臭さが漂うなど、田舎にみられる気持ちいいせせらぎとは比べようもないけれど、それでも四季折々表情を変える様は、ある意味、都会の中の腐ったオアシスと呼ぶにふさわしい流れだった。
そして、笹目川が埼京線と並行して流れる1Kmほどの区間は遊歩道として整備され、都会らしさの中に精一杯の田舎らしさを演出していた。

「あっ、シラサギだ!」
紀子は久しぶりに見る白い鳥に嘆声をあげた。
「あれはチュウダイサギだよ。あっちに2羽いる小さいのがコサギ。」
あいかわらず抑揚のない声で、紀子に答えるでもなく武雄が呟いた。
こいつ、絶対女の子とデートできないな。そんなの、みんなシラサギでいいじゃない。
紀子はそう思いながらも、
「そうなんだ、よく知ってるね。」
と頷いた。

ここ笹目川は武雄お気に入りの散歩コース。今日は久しぶりに穏やかな日和なので、紀子も一緒にでかけたのだった。そしてシラサギは、以前、二人で見沼自然公園を散歩した際、武雄がめずらしく妙に興味を示した鳥だということを紀子は憶えていた。しかし、その時は博物館でシラサギの写真や剥製を見ただけで、実物を見ることはなかった。そのため、生きたシラサギを間近にした紀子は、つい嬉しくなって声を上げたのだったが、しょっちゅう笹目川に来ている武雄にとって、シラサギは普通に見かける鳥になっているようだった。
ちょっと置いてけぼりを喰らったようで紀子はシラケかかっていた。

「笹目川って結構流れが淀んで臭くなるからさ、荒川の水をひいてあそこから流すらしいんだよね。」
紀子の気持ちと関係なしに武雄は語り始めた。
「一度、あそこから水が流れ出るとこ見てみたいんだけどね。」
相変わらず、変なものを見たがる奴だ。
紀子には、そんなものを見たがる武雄の気持ちもわからなかったし、なにより、淀みで臭くなるからといって、下流の川から上流に水をひっぱりあげて流すという発想が不思議でならなかった。
そんなことするなら、川を塞いで下水道にしちゃえばいいのに。
しかし、そうならないのは、武雄のように水の流れを眺めるのが好きという人が世の中、結構いるということだろう。実際、「清流ルネッサンス2」というプロジェクトが実施され、全国各地で河川の浄化に努めているようだった。
たしかに、川の流れがあり、その両岸にちょっとした草地があり、魚や鳥、花や昆虫を眺められるというのは、日々の生活で疲れた心を癒す大切な場所かもしれない。
なんとなく気持ちの落ち着いてきた紀子は、モンキチョウがヒラヒラと舞う姿を見つけて、一人心のなかで呟くのだった。
(あ、モンキチョウだ!)

{ティラリラリーン}
突然、紀子の携帯が鳴った。メールだ。
春子からだった。用件は簡潔に、「来週会わない。」だった。

「武雄、来週友達と会いに行っていい?。」
「いいよ。」

相変わらず、簡潔な会話で交渉成立。武雄と春子って、ちょっと似てるかな。
そんなことを思いながら、紀子は来週行く店を頭の中で考え始めるのだった。

<<つづく>>


<きょうの余談>
長州力選手プロデュース「LOCK UP」がスタートしたようです。
どの席もリングサイドといった感じの狭い会場。
ホールコンサートより、ライブハウスといった感覚なんでしょう。


<きょうのBGM>
「DISILLUSION ~English Version」 LOUDNESS
ちょっとハードで、ちょっとポップで、ちょっとキャッチャーで、いいメロディーと心に残るリフ。
LOUDNESSでは最も聴きやすいこのアルバム。
どちらかというと、日本語ヴァージョンのほうが馴染み易いけれど、アコースティックギターで始まるオープニングの「Anthem(Loudness Overture)」はEnglish Versionだけのオマケなので、これはこれで捨てがたいものです。
洋楽しか聴かない方には特にお勧めです。

■■ 打倒!女子十二楽坊
    今、ふたたび・・・ビルボードにその名を刻め  ■■

| | コメント (4) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

スポーツ | プラモデル | ライブ | 小説 | 音楽 | Index